僕の好きな風景 第69回 住宅1軒から町の景観を考える
松本の家。いぶし銀の瓦屋根を低く抑え、中庭を町にお裾分けした。この家で松本市景観賞をいただく
週刊かふう2023年3月3日号に掲載された内容です。
先日、長野県・松本市の景観賞をいただきました。
この賞は一般市民の推薦でノミネートされるという、その地で暮らす市民の眼が反映された賞です。
こちらも受賞が決まるまで全く知らなくて、受賞の連絡をいただいた時、「ああ……そうですか? ありがとうございます」という素っ気無いものでした。
僕の知らない、その地の市民が見てくれていることの嬉しさと感謝が後からじわじわと湧き上がってきました。
住宅は町の風景を創り出す重要な存在であるにもかかわらず、たいていの住まい手は自分自身の暮らしの利便性を優先して、自分の住まいが社会の一員であることを忘れてしまいます。公共建築とは違うと思い込みがちで、それがエゴとなって表出してしまう。
心ある設計者は多かれ少なかれ、クライアントである住まい手の要望と社会性のバランスを取ろうと努力しているはずです。
僕の場合は、建物を敷地に目一杯建てないこと、高さを低めに抑えることを心がけています。
さらに方位に関係なく道路をコモンスペース(表の顔、町)として、そこへ建物の顔を向けるように設計を進めます。
道路側へはできる限りお風呂やキッチンなどの水回りを配置しないようにしているのです。
そうすることでさまざまな設備や排気フードなどを町に晒(さら)すことが避けられます。それだけでも随分と町並みが綺麗になるものです。
道路側に車が何台も並んで、まるでアパートみたいな佇まいになりそうな時でも、邪魔にならないところに樹木を配置し、アプローチにそって植栽を設けて社会に参加する家づくりを勧めています。
それが「向こう3軒、両隣り」の心地よさにつながり、町に広がっていくのだと思っています。
甲府の家。道路側に車が並ぶ風景にならないようにアプローチ脇を緑化し、車の背後に樹木を植えた