僕の好きな風景 第17回 木立の中に佇(たたず)む名建築
木立の中に佇(たたず)む名建築
建築家・吉村順三(東京藝術大学名誉教授)設計の「小さな森の家」(吉村氏の軽井沢の別荘)は、建築史に残る名作中の名作。若い頃から、軽井沢の森の中に佇み、宙に浮かぶような山荘に憧れて続けてきました。
先日、久しぶりに軽井沢の「聖地」とも言うべき、この山荘を訪れました。木立に囲まれ、夏には大きな開口を開け放して森を取り込み、冬には暖炉に火をともして穏やかな時間を過ごす空間は、駆け出しの建築家であった僕の夢のような建築であり、大きな目標でもありました。
「簡素にして品格あり」……吉村建築を見事に表現した言葉だと思います。庶民から天皇の住まいまで、社会的地位に関係なく人々の住まいを設計した姿勢は誠実そのもの。建築家にとって住宅の設計が、すべての設計の基本である事を体現した建築家でした。
この山荘を前にして、良い建築とは何だろう? と考えてみました。その答えはいくつもあると思いますが、自己主張を抑えた奥ゆかしい佇まいを持つという事を、良い建築の条件に加えたいと強く思いました。
木立の中に溶け込むように佇む……そう言えば、フィンランドのアルヴァ・アアルトの名作「マイレア邸」も、フランク・ロイド・ライトの「落水荘」も木立に囲まれ、自然に溶け込むように佇んでいます。
斬新な建築でありながらも、木立の中に佇むことで建築の雑味が浄化され、人の作為を超えた環境をまとうことが名建築の条件のひとつかもしれません。