基礎からわかる相続Q&A SEASON2 File.3 遺留分のルールと例外について
週刊かふう2023年3月24日号に掲載された内容です。
Q. 生前贈与や遺言書でなんとか円滑に息子に工場などの事業用財産を受け継いでもらうことはできないでしょうか。私の死後に息子と娘たちの間で争いとなってしまうというような事態は避けたいと思っています。
私は、個人で製造業を営んでいます。幸い事業は堅調で、私の工場を持つまでになりました。私の財産としては、工場の他に自宅やいくらかの貯金があります。
先日、妻に先立たれ、私も高齢になって病気も増えてきたことから、私がいなくなった後の事業のことを考えるようになりました。私としては、事業を手伝ってくれている息子に会社関係の財産を譲りたいと考えています。ただ、生前贈与や遺言書で一部の子に多くの財産を渡してしまうことには問題があると聞きしました。
娘(息子の妹)2人も、現在は私の事業や息子を応援してくれていますので、なんとか円滑に息子に工場などの事業用財産を受け継いでもらうことはできないでしょうか。現在は兄妹3人も円満な関係にあり、私の死後に息子と娘たちの間で争いとなってしまうというような事態は避けたいと思っています。
A. 円滑な事業承継を実現する観点から、事業用財産の遺留分については、別個に取り扱うことが認められるようになりました。
遺言は、財産を残す方の最期の意思をできるだけ実現させる制度で、生前贈与は生きている間に自らの意思で財産を譲渡することです。
これらによって財産を残す方の意思を反映させる一方で、他の相続人にとってあまりに不公平なことになってはいけないことが前提にあります。そのため、法律では兄弟姉妹以外の法定相続人については被相続人の財産の一定割合を遺留分とし、これが侵害された場合に遺留分侵害額請求を認めるというかたちでバランスが取られています。遺留分とは、相続財産から最低限相続させなければならない部分です。子どもが相続人となる場合の遺留分割合は2分の1でそれを法定相続分で分けることになります。遺留分を算定する基礎財産の価額には、原則として10年以内に行われた贈与も加えることになります。
遺留分を侵害された相続人は、多く遺産を受け取った相続人に対して遺留分侵害額請求をすることができます。遺留分侵害額請求は、相続紛争の最たるもので、生前には争いがないように見えても相続発生後に紛争となってしまうことはままあります。遺留分をあらかじめ放棄する民法上の制度もありますが、相続人全員が家庭裁判所に申し立てる必要があることもあって、ほとんど利用されていません。
そこで、円滑な事業承継を実現する観点から、事業用財産の遺留分については、別個に取り扱うことが認められるようになりました。具体的には、法定相続人全員の書面による合意により、会社関係資産の全部または一部の価額を将来の遺留分算定の基礎から除外すること(除外合意)や、その評価額について、相続開始時の評価ではなく事業承継時の評価で固定すること(固定合意)ができるようになりました(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条)。この合意後に、後継者が経済産業大臣の確認を得た上で家庭裁判所の許可を得る必要があります。
本件では、子どもたちに呼びかけをして、工場の不動産を含む事業用資産の全部または一部の価額を遺留分算定の基礎から除外することの合意ができるのであれば、書面を作成して所定の手続きを行い、息子さんに工場の不動産を含む事業用資産を承継させることが考えられます。それができれば、遺留分算定の基礎となる財産は自宅不動産と預貯金となり、相談者様の死後に遺留分侵害額請求によって紛争が生じる可能性は低くなるでしょう。
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