基礎からわかる相続Q&A SEASON2 File.11 配偶者居住権の利用が適している場面について
週刊かふう2023年11月17日号に掲載された内容です。
Q.私は夫と市内の中心部に建てた家で暮らしていましたが、昨年、夫が亡くなりました。夫の財産は夫名義のこの家と少額の預金だけですが、立地がとてもよく土地を含めた家の評価額がかなり高くなっているようで一人娘が、家、土地を売却してまとまった財産を確保したいと言ってきました。私としてはこの家に今後も住み続けたいと思っていますが、生活資金に余裕はなく、家の権利取得のために娘にお金を払うのも難しい状態です。この状況で私がこの家に住み続けることはできるのでしょうか?
昨年、夫が亡くなってしまいました。私たち夫婦は、夫名義の家に二人で生活してきました。夫名義の家は、市内の中心部にあり、生活するにはとても便利な場所なので今後もこの家で暮らしてきたいと思っていますが、その分土地を含めた評価額はかなり高くなっているようです。夫の他の財産は少額の預金程度です。
私たち夫婦には娘が一人いて、娘からはそろそろ遺産を分ける話をしようと促されています。娘は、この家で生活していきたいという私の希望を理解してくれてはいますが、他方で娘の夫が経営している事業の資金繰りに苦労しているという話もあり、相続でまとまった財産を確保したいという意向もあるようです。
私としては、今後の生活資金にも余裕があるわけではないので、家の権利を取得するために娘にお金を支払うことも難しいと思っています。この状況で、私が家に住み続けることはできるでしょうか。
A.夫婦の一方が亡くなった後、残された方が住み慣れた住居で生活を続けるとともに老後の生活資金も確保したいと希望することも多いと思われます。しかし、不動産の価値によっては、他の相続人との兼ね合いで家の確保と老後資金の確保を両立することは難しいこともあります。配偶者居住権の制度を利用することで、この問題を回避することができるかもしれません。
今回、相続人は相談者と娘さんのお二人で、遺言書がなければ相続分は2分の1ずつとなります。相談者が家と土地を相続で取得すると、土地と建物の価値が高い本件では相続分をオーバーする可能性が高いので、娘さんが相応の相続分を求めるのであれば、代償金としてかなりの金額を支払う必要が出てくると思われます。
本件の場合、相談者が配偶者居住権を取得し、娘さんが配偶者居住権の負担付きの所有権を取得するという方向で調整することが考えられます。
配偶者居住権とは、遺された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合で、一定の要件を満たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が家賃の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。あくまでも配偶者が住み続ける権利なので、売却したり所有者に無断で賃貸したりすることはできません。
完全な所有権を、配偶者居住権と配偶者居住権の負担付の所有権の“2つに分割する”というイメージです。配偶者居住権の権利は、完全な所有権より価値が低いので、相談者が取得する財産が相続分をオーバーしてしまう金額が小さくなります。
相談者が配偶者居住権を取得できるのは、そのような遺産分割協議が成立した場合か、配偶者居住権を取得させる内容の遺産分割の審判が出た場合です。
仮に、娘さんに相談者の方が配偶者居住権を取得することについて反対された場合でも、娘さんの不利益の程度を考慮してもなお相談者の生活を維持するために特に必要があると裁判所が認める場合には配偶者居住権が認められる余地があります。
また、相談者が亡くなった後のことまで考えると、相続税の節税という観点から配偶者居住権を利用するメリットがあることもあります。相談者が亡くなった後に娘さんが相続するときにも一定以上の財産が相続される場合には相続税が発生することになり、家の所有権を相談者が相続した場合には、家の不動産の価値を含めた財産について相続税の金額の算定をしなければならないことになります。
これに対し配偶者居住権は、亡くなった際に相続される権利ではないので、相談者が亡くなった際の相続税の金額の算定を抑えられることにつながります。
那覇楚辺法律事務所:〒900-0023 沖縄県那覇市楚辺1-5-8 1階左 Tel:098-854-5320 Fax:098-854-5323