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基礎からわかる相続Q&A SEASON3 File.3 信託契約と遺留分について

基礎からわかる相続Q&A SEASON3 File.3 信託契約と遺留分について

週刊かふう2024年3月15日号に掲載された内容です。

 

Q.私は親から相続した賃貸アパートがあり、そのアパートの家賃収入が主な収入源です。現在は妻と二人暮らしをしていますが、私も高齢になり、自分で物件の管理ができるのか?私が死んだあと体が不自由な妻の生活はどうなるのか?などを考え、息子と信託契約なるものを結ぶか考えています。このような契約を結ぶ際の問題点やかかる税などについて教えて下さい。

 私は現在、妻と2人暮らしです。妻は体が不自由なため、生活にさまざまなサポートを必要としています。私の主な財産としては親から相続した賃貸アパートがあり、そこからの家賃収入が現在の主な収入です。私たち夫婦の間には、息子と娘がおります。私も高齢となり、持病もありますので、自分で物件の管理が継続できるかとか、私の死後に妻の生活はどうなるかと心配しています。最近、信託契約というものがあることを知り、息子と信託契約を締結して、不動産管理を息子に委託し、私の死後は不動産収入を妻に取得させ、妻も亡くなった際には息子に不動産を取得させることを考えています。このような契約をすることについて、何か問題はありますか。また、贈与税がかかったりするのでしょうか。

A.信託契約の対象は銀行等が受託者となる場合は金銭等に限られますが、不動産を信託契約の対象とすることもできます。信託契約を利用することで、財産管理の負担を受託者に代わってもらったり、自分の死後の受益権について指定することができます。他方で、信託契約の内容によっては、紛争の原因となる可能性もあります。事例をもとに見てみましょう。

 信託契約とは、委託者が所有する財産を受託者に移転し、信託目的に従って受託者にその財産の管理または処分をさせる契約のことです。本件では、相談者が委託者、息子が受託者とした信託契約を締結した場合、息子が信託目的に従って信託の目的とした賃貸アパートの管理等を行うことになります。そして、相談者の考える信託契約では、相談者の存命中は相談者が受益者となり、相談者の死後は配偶者が受益者となって、息子(受託者)に対する受益債権(収益を請求する権利)を有することになります。

 信託契約を利用することによって、信託した財産は遺産分割協議の対象から外れることになります。
 しかし、配偶者や子、親が相続人となる場合には、これらの相続人には遺留分があります。遺留分とは、相続財産から最低限相続させなければならない部分です。法律は、ある程度亡くなる方の意思を尊重する一方で、他の相続人にとってあまりに不公平なことになってはいけないので、兄弟姉妹以外の法定相続人については被相続人の財産の一定割合を遺留分とし、これが侵害された場合に遺留分侵害額請求を認めるというかたちでバランスを取っています。子どもが相続人となる場合の遺留分割合は2分の1でそれを法定相続分で分けることになり、息子や娘の遺留分割合は8分の1となります。

 そして、遺留分の計算の基礎とする財産は、信託契約がなされたケースではその受益権も含めて計算することになります。言い換えると、信託契約によっても、遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求というかたちで紛争が生じうる状態となってしまうということです。相談者が、自分の死後に親族間で遺留分侵害額請求の紛争を望まないのであれば、各相続人が遺留分は自己の相続分として確保できるよう配慮する必要があります。

 また、信託契約を締結すると、信託目的不動産の所有権が受託者である息子に移転することになりますが、本件のように委託者と受益者が同一(相談者)となる信託契約に基づく所有権移転は、形式的なものとされ、この時点では贈与税は課されません。相談者が亡くなった際には、配偶者が受益権の遺贈を受けたものとして相続税が課税されます。親の死亡によって信託が終了し、子が帰属権利者となった場合には、その際に相続税が課税されます。

 他に、信託から生じる不動産所得については損益通算の制限等があるため、複数の収益不動産がある場合には注意が必要であるなど、税制面での注意事項があります。

基礎からわかる相続Q&A SEASON3 File.3 信託契約と遺留分について

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