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よくわかる不動産相続 Q&A File.15

よくわかる不動産相続 Q&A File.15

週刊かふう2017年11月17日号に掲載された内容です。

認知症など、判断能力を喪失した場合の対策

2回にわたって「家族信託」の大まかな概念や仕組を解説いたしましたが、ご理解いただけたでしょうか?「家族信託」についてはまだ日が浅い制度ですので、より詳しいことはお近くの司法書士事務所などでご相談されることをお勧めいたします。かわって今回は、認知症などで判断能力を失った際の財産管理や相続などの対策です。身近な問題でもありますから、ご参考になれば幸いです。

よくわかる不動産相続 Q&A File.15

Q.自身の判断能力の喪失後のアパートの管理運営や自分の亡き後の妻の生活、相続税対策等もしっかりと対応できたらと思っています。

80歳になる私(A)は、自宅とアパート1棟、2000万円の銀行預金があります。家族は妻(78歳)と、長男、長女がおり、現在は長男家族と同居、長女は既に嫁いでいます。最近体調を崩すことが多くなり自身の健康面の不安もありますが、妻も物忘れがひどくなっているように思われます。そのため相続でもめることがないように対策が必要と案じています。そのようなことから、自身の判断能力の喪失後のアパートの管理運営や自分の亡き後の妻の生活、相続税対策等もしっかりと対応できたらと思っています。

A.生前贈与や遺言書作成、任意後見制度の利用が考えられます。

 生前贈与を検討するにあたっては、贈与税はもちろんのこと将来の相続税の課税の有無や想定される相続税額、所有権移転登記の登録免許税や不動産取得税がどのくらい課税されるのかを事前に確認する必要があります。居住用不動産の配偶者控除や相続時精算課税制度の適用等も含め検討すべき課題があり、想定外に税負担が大きいと生前贈与を見直さざるを得ない場合があります。
 遺言書の作成も有効です。また、遺言による信託もできます。ただし、遺言の効力はAさんの相続開始後ですので、Aさんの判断能力の喪失という事態に対する対策がとれません。
 認知症対策としては、Aさんの判断能力が十分な間に、任意後見制度を利用する方法があります。例えば長男をAさんの将来の後見人に指名しておくという方法です。Aさんの判断能力の喪失後、所定の手続きを経て、長男がAさんの後見人に就任すると、基本的にはAさんの財産は事実上凍結されてしまいますので、任意後見契約時において、任意後見人の権限を明確に定めておく必要があります。任意後見契約の内容によっては、Aさん所有のアパートのリフォームや生前贈与も可能となる場合がありますが、家庭裁判所より選任された任意後見監督人の監督の下で後見事務を行っていくことになります。
 次に、家族信託契約を検討してみます。Aさんを委託者とし、長男または長女を受託者、そして当初受益者は委託者であるAさんとします。信託する財産は自宅とアパート、2000万円の銀行預金の内、一部はAさんが自由に使えるお金としてAさん自身に管理してもらい残りの金銭は信託します。そして、生活費や妻の身上介護等に必要な費用を信託財産から給付すること、信託財産である自宅とアパートの管理運営や大規模修繕、場合によっては、売却する権限についても信託契約の内容として受託者に託することができます。受託者は自らの判断で信託財産の管理運営や修繕、さらには売却まで行うことができるようになります。信託財産の管理運営から生じたアパートの家賃収入、売却の際の売買代金は受益者であるAさんが受領(じゅりょう)します。Aさん亡き後の2次受益者は、長男だけとする、あるいは長男と長女の2人とする等、家族の状況に応じて設定します。この家族信託契約の内容は、Aさんの判断能力喪失後も維持することができるのが大きな特徴です。なお、受託者が受益権の全てを持っている状態が1年間以上継続したとき信託が終了することも理解しておく必要があり、信託の設定に際しては注意します。これは家族信託契約のほんの一例で、実際の家族信託の設定にあたっては、家族の事情や財産の状況は千差万別なので、個別具体的な事情を考慮し、そして何よりも本人の思いを反映できるような契約内容を検討していきます。ただし、家族信託はあくまで相続対策における選択肢の一つです。家族の事情や財産の状況によっては、家族信託ではなく、生前贈与や遺言書作成が有効な場合があります。

※「家族信託」という用語は正式な法律用語ではありません。信頼できる家族に財産の管理処分を任せる信託という意味で一般社団法人家族信託 普及協会が商標登録した用語です。本原稿では同協会の了承のもと「家族信託」を使用しています。

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