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新 よくわかる不動産相続Q&A File.3

新 よくわかる不動産相続Q&A File.3

週刊かふう2019年8月23日号に掲載された内容です。

配偶者短期居住権の制度

改正相続法の解説として、配偶者が引き続き無償でその建物を使用することができる配偶者短期居住権の制度についてお話します。読者の皆さまに、法的課題の解決の考え方・ヒント・情報等をご提供できれば幸いです。

Q.私妻B(70歳)は、最近、46年間連れ添った夫A(75歳)を亡くしました。

 夫Aとの間には長男C(45歳)・長女D(40歳)がいます。
 夫Aの遺産としては、築30年の2階建ての自宅(土地建物、土地は約2000万円・建物は約1000万円の価値)と、若干の預貯金があるのみです。長男Cは、営んでいる事業がかんばしくなく、自宅(土地建物)を早急に売却し、金銭で分割して、事業の運転資金に充てたいようで、私妻Bに、盛んに自宅(建物)から引っ越すように求めてきます。
 私妻Bは、自宅(土地建物)に愛着があり、当面自宅に無償で住み続けたいと考えています。私妻Bは、自宅(建物)から出ていかなければならないのでしょうか。

A.夫Aの死亡により相続が開始された場合、妻B・長男C・長女Dは、それぞれ持ち分を1/2・1/4・1/4として本件建物を共有することになります。

 これに基づくと、妻Bが長男C・長女Dの了解を得ることなく本件建物への居住を継続した場合、妻Bは、長男C・長女Dそれぞれに1/4ずつの賃料相当額を払わなければならないということになります(不当利得)。しかし、夫Aと約30年間本件建物で生活してきた妻Bの要望(当面本件建物に無償で居住したい)は、社会通念上誰でも納得しうる相当なもので、法的にも保護されるべきものです。
 そこで、最高裁は、共同相続人の一人が、相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきたときは、相続開始後も遺産分割の成立までは、建物に無償で居住することができるとし、その法的理由を、建物を無償で使用させる旨の被相続人の同意があったものと推認され、被相続人の地位を承継した他の相続人らが貸主となり、同居相続人を借主とする使用貸借契約が存続するからであると判示しました(平成8年12月17日最高裁判決)。これを本件にあてはめると、貸主長男C・長女Dと借主妻Bとの間で、期間を相続開始から遺産分割の成立までとした、使用貸借契約が成立し、妻Bは本件建物を無償で使用することができる、ということになります。
 しかし、仮に、夫Aが本件建物を長男Cに遺贈していた場合、妻Bの無償居住に反対の意思を示していた場合は、建物を無償で使用させる旨の被相続人の同意があったものと推認することはできず、妻Bは本件建物に無償で居住できないことになります。
 そこで、改正相続法は、最高裁平成8年12月17日判決を発展させ、配偶者が、相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合には、短期居住権を取得し、遺産分割により建物の帰属が確定するまでの間または相続開始から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができる、という配偶者短期居住権の制度を設けました(1037~1041条)。

 この配偶者短期居住権の制度によると、妻Bは、夫Aが本件建物を長男Cに遺贈していた場合、妻Bの無償居住に反対の意思を表示していた場合でも、夫Aの死亡から遺産分割協議が成立するまでは(仮に3カ月後に遺産分割協議が成立したときでも最低6カ月は)、本件建物に無償で居住することができるということになります。
 配偶者短期居住権の制度は、来年4月1日から施行されます。今後、配偶者の保護に繋がる運用を期待したいと思います。

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