新 よくわかる不動産相続Q&A File.4
週刊かふう2019年8月30日号に掲載された内容です。
配偶者短期居住権の制度 その2
今回は、配偶者が相続人でない者から建物からの退去を求められた場合の配偶者短期居住権の制度についてお話しします。読者の皆さまに、法的課題の解決の考え方・ヒント・情報等をご提供できれば幸いです。
Q.私妻B(70歳)は、46年間連れ添った夫A(75歳)との間に長男C(45歳)・長女D(40歳)の2人の子がいますが、その夫Aが最近亡くなりました。
夫Aの遺産としては、築30年の2階建の自宅(土地建物、土地は約2000万円・建物は約1000万円の価値)とわずかばかりの預貯金があるのみです。夫Aは、事業を営む実弟Eから営業が破綻寸前で運転資金が必要だと懇願されていたようで、自宅(土地建物)を実弟Eに遺贈していることが判明しました。実弟Eは、私妻Bに、早急に自宅(建物)から引っ越すように求めてきます。
私妻Bは、自宅(土地建物)に愛着があり、当面自宅に無償で住み続けたいと考えています。私は、自宅(建物)から出ていかなければならないのでしょうか。
前回、相続人間の遺産分割に伴い、配偶者が他の相続人から居住建物からの退去を求められた場合における配偶者短期居住権の制度について説明しました(1037条1項1号)。
今回は、配偶者が、相続人でない者から居住建物からの退去を求められた場合の配偶者短期居住権の制度について説明したいと思います。
A.自宅の遺贈を受けた実弟Eは、夫Aの死亡=相続の開始により、自宅(土地建物)の所有者となります。
そして、本件建物に居住する妻Bに対し、所有権に基づき本件建物からの立退きを求めることが出来、妻Bはこれに応じなければならないということになりそうです。しかし、夫Aと約30年間本件建物で生活してきた妻Bに、そのような退去義務を認めるのは、誰も納得できないでしょう。
最高裁は、前回説明したとおり、配偶者と他の相続人との間で遺産分割が行われる場合において、①共同相続人の一人が、相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきたときは、②相続開始後も遺産分割の成立までは、③建物に無償で居住することが出来る、④その法的理由を、建物を無償で使用させる旨の被相続人の同意があったものと推認され、被相続人の地位を承継した他の相続人らが貸主となり、同居相続人を借主とする使用貸借契約が存続するからであると判示しました(平成8年12月17日判決)。しかし、相続人でない者が配偶者に対して建物からの退去を求める事案については、この最高裁判例はあてはまりません。
改正相続法は、最高裁平成8年12月17日判決の趣旨を拡大し、①配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合には、配偶者短期居住権を取得する、②居住建物の所有権を取得した者は、配偶者に対し、何時でも短期居住権の消滅の申入れをすることが出来る、③しかし、配偶者は、その申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間、引き続き居住建物を利用することができる、と規定しました(1037条1項2号)。これを本件にあてはめると、妻Bは、実弟Eの本件建物の退去請求=短期居住権の消滅請求に対し、6か月の退去の猶予を求めることが出来るということになります。
前回説明したとおり、この配偶者短期居住権の制度は、来年4月1日から施行されます。今後、配偶者の保護に繋がる運用を期待したいと思います。なお、妻B・長男C・長女Dは、実弟Eに対し遺留分権を行使することができますが、これについては次回に説明したいと思います。