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新 よくわかる不動産相続Q&A File.5

新 よくわかる不動産相続Q&A File.5

週刊かふう2019年9月20日号に掲載された内容です。

遺留分制度の見直し

今回は相続人の権利を守る遺留分制度についてお話しましょう。既に見直しが施行されている遺留分制度ですが、まだまだ馴染みが無いのも事実。そこで課題解決の考え方・ヒント・情報等を法的な見地から、読者の皆さまにご提供したいと思います。

Q.私妻B(70歳)は、46年間連れ添った夫A(75歳)との間に長男C(45歳)・長女D(40歳)の二人の子がいますが、その夫Aが最近亡くなりました。

 夫Aの遺産としては、築30年の2階建の自宅(土地は約2000万円・建物は約1000万円の価値の土地建物)と約200万円の預貯金があるのみです。夫Aは、共同で事業を営む実弟Eから営業が不振で運転資金が必要だと懇願されていたようで、自宅(土地建物)を実弟Eに遺贈していることが判明しました。しかし、それでは私妻Bの生活がとても不安ですし、長男C・長女Dも同様です。
 私妻B・長男C・長女Dに、夫Aの遺産を確保する方法はないのでしょうか。

A.夫Aは、私有財産制度の下で、自らの財産を自由に処分することができます。

 死後も、遺言によって財産の処分が可能です。しかし、反面、夫Aの妻B・長男C・長女Dの遺族は、それぞれ妻1/2・長男1/4・長女1/4の法定相続分を有し、当面または将来の生活確保等のために相続に対し相当の期待を持っています。この被相続人の財産処分の自由と、相続人の相続に対する期待の調和を図ろうとするのが遺留分制度です。
 本件では、夫Aの実弟Eに対する本件土地建物の遺贈は有効ですが、相続人妻B・長男C・長女Dは、実弟Eに対し、それぞれ法定相続分の半分の1/4・1/8・1/8の遺留分権を有し、これを行使すれば、その範囲内で遺贈の効力は失われますが、行使するか否かはそれぞれの判断に委ねられます。遺産全体の評価額は3200万円ですから(3000万円⦅土地建物⦆+200万円⦅預貯金⦆)、相続人妻B・長男C・長女Dが、預貯金200万円をそれぞれ100万円・50万円・50万円で分割取得した場合、それぞれの遺留分権の評価額は700万円(800万円-100万円)・350万円(400万円-50万円)・350万円(400万円-50万円)となります。
 従前の遺留分制度の下では、相続人妻B・長男C・長女Dが、本件土地建物の遺贈を受けた実弟Eに対し遺留分減殺請求権を行使した場合、本件土地建物は、それぞれの持分が相続人妻B700/3000・長男C350/3000・長女D350/3000・実弟E1600/3000の共有となりました(物権的効力)。しかし、共有物の分割には相当の時間的・金銭的コストを要するのが通常で、実弟Eが本件土地建物の遺贈を受けた目的(本件土地建物を売却して、事業の運転資金を確保する)、相続人妻B・長男C・長女Dが遺留分権を行使した目的(生活費を確保する)が達せられません。
 そこで、改正相続法は、遺留分権の行使によって共有関係が当然に生ずることを見直し、遺留分侵害額請求権として金銭債権化しました(1042~1049条)。本件では、相続人妻B・長男C・長女Dは、本件土地建物の遺贈を受けた実弟Eに、それぞれ700万円・350万円・350万円の支払を求めることが出来るということなります。また、併せて、請求を受けた実弟Eが、裁判所に、金銭債務の全部または一部の支払について、相当の期限の許与を求める制度も設けられました。

 この遺留分制度の見直しは、既に本年(2019年)7月1日から施行されています。今後、適切な運用を期待したいと思います。

新 よくわかる不動産相続Q&A File.5

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