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新 よくわかる不動産相続Q&A File.6

新 よくわかる不動産相続Q&A File.6

週刊かふう2019年9月27日号に掲載された内容です。

「相続させる」旨の遺言について

今回は、特定の相続人が遺産の法定相続分を、「相続させる」旨の遺言により遺産を取得した法定相続人の承諾なしに売却・登記したというケースの事案です。この事案にも新たに改正された相続法が適用されますので、課題解決の考え方・ヒント・情報等を法的な見地から、読者の皆さまにご提供したいと思います。

Q.私妻B(70歳)は、46年間連れ添った夫A(75歳)との間に長男C(45歳)がいますが、その夫Aが最近亡くなりました。

 夫Aの遺産としては、築30年の2階建の自宅(土地建物、土地は約2000万円・建物は約1000万円の価値)があるのみです。夫Aは、その土地建物を私妻Bに「相続させる」旨の遺言を残してくれました。実は、長男Cが事業の失敗で相当の負債を抱えていることを考慮したようです。
 しかし、私妻Bが未だ相続による登記手続を取っていない間に、長男Cがその土地建物に関し自己の法定相続分1/2について登記手続を取り、第三者Dにその持分1/2を売却し、その代金を事業上の債務の支払に充てたようです。第三者Dに、既にその持分1/2の登記が移転しています。
 私妻Bは、第三者Dに対し、そのD名義の登記がなされた持分1/2についても、私妻Bのものであると主張出来るのでしょうか。

A.特定の相続人に特定の遺産たる不動産を「相続させる」旨の方式は、その特定相続人が単独で登記申請手続が取れるメリットもあり、遺言でよく用いられています。

 最高裁は、その「相続させる」旨の遺言の法的性質について、原則として、①被相続人が、特定遺産を特定相続人に単独で相続させるという相続分の指定及び特定遺産の分割方法を指定したもので、②特定相続人は、被相続人の死亡時に、何らの行為(例えば登記)を要することなく特定遺産を直ちに取得すると判示しました(平成3年4月19日)。更に最高裁は、その特定相続人は、第三者に対し、登記なくして特定遺産の所有権を主張しうると判示しました(平成14年6月16日)。
 本件でいうと、妻Bは、未だ登記を有しないとしても、第三者Dに対し、既にD名義の登記がなされている持分1/2についても、その所有権を主張しうるということになります。本件土地建物について、夫Aの死亡によって妻B・長男C共有という法的関係が生ずることはないから、第三者Dが長男Cからその持分1/2を取得し得るはずがないという考え方に基づいています。
 最高裁判例に基づくと、妻Bの保護には繋がりますが(取引の静的安全)、長男C名義の登記を信頼して本件土地建物の持分1/2を譲り受け、その登記まで取得した第三者Dの保護(取引の動的安全)としては不十分です。社会全体として、取引の動的安全をもっと保護・確保する必要があります。
 そこで、改正相続法は、遺産の分割によらない「相続させる」旨の遺言による特定遺産の取得も、登記(対抗要件)なくして第三者に対抗しえないと規定しました(899条の2第1項)。これによると、妻Bは、登記を備えていないので、第三者Dに、本件土地建物の持分1/2を主張しえないということになります。
 改正相続法の下では、妻Bは、夫Aと遺言の内容について生前綿密に協議し、早急に登記を備えることが必要になります。

 民法899条の2は、既に本年7月1日から施行されています。今後は、登記の有無を基準として運用されることになります。

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