新 よくわかる不動産相続Q&A File.11
週刊かふう2019年12月13日号に掲載された内容です。
遺産分割前の遺産処分について
遺産分割の対象財産を、相続人の一人が勝手に処分した場合には、他の相続人が不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求をして解決を図ることができますが、それには長い時間を要したり、回収できないこともあります。そこで公平な遺産分割を目指して、遺産分割前になされた財産処分に対応する制度が新たに設けられました。
Q.私妻B(70歳)は、46年間連れ添った夫A(75歳)との間に長男C(45歳)・次男D(43歳)がいますが、最近夫Aが亡くなりました。
夫Aの遺産としては、築30年の2階建の自宅(土地建物、土地は約2000万円・建物は約1000万円の価値)と2000万円の預金がありました。実は、長男Cが、夫A死亡後、密かにその2000万円の預金の払戻を受けたようです。長男Cが、その2000万円を未だ手元に置いているのか、それとも事業から生じた借金の返済に充てたのかは良く分かりません。その後の遺産分割はどうなるのでしょうか。
A.2000万円の預金債権は、本来夫Aの遺産を構成します。
仮に長男Cの2000万円の預金の無断払戻がない場合は、法定相続に従うと、妻Bの相続分は2500万円{(3000万円+2000万円)×1/2}、長男C・次男Dの相続分はそれぞれ1250万円{(3000万円+2000万円)×1/4}として、遺産分割が為されます。しかし、長男Cの2000万円の預金の無断払戻の結果、この法定相続に従った公平な遺産分割を実現することができなくなってしまいました。
遺産分割の対象となる遺産は、相続開始時ではなく遺産分割時の相続財産です。本件では、遺産は3000万円の価値のある本件土地・建物ということになります。法定相続に従うと、これを妻Bが1/2(1500万円相当)、長男C・次男Dがそれぞれ1/4(750万円相当)の持分を有しているという理屈になりますが、実際は、長男Cが2000万円の預金の無断払戻を受けたことを踏まえ、遺産分割がなされることになります。そして、妻B・次男Dは、長男Cに対して、不法行為・不当利得に基づきそれぞれ不足分の1000万円(2500万円-1500万円)・500万円(1250万円-750万円)の支払を求めて民事訴訟を提起することができますが、仮に長男Cがその2000万円を既に事業から生じた債務の弁済に充てていた場合は、民事訴訟で勝訴したとしても、その実効性はあまりありません。
相続法改正以前でも明文はありませんが、仮にその2000万円が未だ長男Cの手元にある場合には、相続人全員の同意により、その2000万円を預金債権として遺産に組み戻すことができるという運用がなされていました。しかし、おそらく長男Cは同意しないでしょう。従って、本件では、不公平な遺産分割のまま終わってしまう可能性があります。
そこで、改正相続法は、公平な遺産分割を図る見地から、遺産分割前になされた財産処分について、①相続人全員の同意により、処分された財産を遺産分割の対象とすることができることを明文化するとともに、②その処分者たる相続人の同意がなくとも、それは可能であることを規定しました(民法906条の2)。
本件でいうと、長男Cの同意が無くとも、妻B・次男Dの同意により、長男Cの手元にある2000万円を預金債権として遺産分割の対象とすることができ、公平な遺産分割が図られることになります。
この、遺産分割前になされた財産処分に対応する制度は、既に本年7月1日から施行されています。ご参考になさって下さい。