よくわかる不動産相続 Q&A File.2
週刊かふう2017年4月28日号に掲載された内容です。
夫と共に築いた遺産の相続
私、弁護士の島袋秀勝が「不動産と相続」という課題で、この欄を担当することになりました。読者の皆さまに、法律的な視点から、抱えている問題の解決のヒント・考え方・情報等をご提供することができれば幸いです。よろしくお願いします。
遺言書がない場合など、民法により定められた法定相続人と法定相続分が適応されます。但し、配偶者は正式に婚姻届けが出されていることが必要です。また、例外的な事項としては、相続人が死亡などの場合には代襲相続があります。
Q.私Bは、夫Aと一緒に、長男C・長女Dを育ててきました。
子供二人は、社会人として独立し、長女Dは婚姻もしています。長年連れ添った夫Aが亡くなったため、夫A名義の①2階建ての自宅(土地・建物)、②3階建ての6世帯のアパート(土地・建物)、③1000万円の預金が遺産として残されました。またアパートからは、毎月40万円の家賃収入がありますが、アパート取得にあたっての銀行ローンが1500万円残っており、毎月20万円を銀行への返済に充てています。夫Aの遺産は、子供たちのためにと夫婦で懸命に築き上げた財産です。将来的には、長男C、長女Dに適切に引き継いでもらいたいのですが、私もまだ一人暮らしですから、生活を確保する必要があります。この観点から、法律的なアドバイスをお願いします。
A.まず、遺産(財産上の権利・義務)の内容を考えてみましょう。
①2階建ての自宅(土地・建物)、②3階建てのアパート(土地・建物)、③1000万円の預貯金が遺産を構成することは当然ですが、④3階建てのアパートの賃貸人たる地位も遺産にあたります。賃貸人たる地位は、賃借人に毎月家賃を請求しうる賃料請求権を中心とする財産上の地位であり、それは財産的価値を有するからです。これらは、プラスの財産で、積極財産といいます。
反面、銀行に対する1500万円の残債務も遺産を構成することになります。これはマイナスの財産で、消極財産といいます。(※表1参照)
Aの死亡により、法定相続人であるB・C・Dは、遺産(財産上の権利・義務)を、法定相続分に従って承継することになります。法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1(人数で割る)になります(※表2参照)。相続人は、遺産分割協議が成立するまでは、積極財産・消極財産いずれも、この法定相続分の割合に従って共有することになります。これは、遺産分割協議成立までの過渡的な状態と位置付けることができます。
B・C・Dは、遺産分割協議の成立によって、Aの遺産を確定的に取得することになります。ただし、遺産分割協議は、必ずしも前述の法的相続分の割合にとらわれる必要はありません。
例えば、C・Dに、遺産は夫婦A・Bが協力して懸命に築き上げてきたものであることを十分に理解してもらい、まずは全ての遺産をBが相続するという遺産分割協議も可能でしょう。また、アパートについて子(C・D)が持ち分2分の1の割合で取得するが、母(B)が健在の間は、Bが賃貸人たる地位を相続し、家賃収入を取得し、その収入を銀行ローンの返済に充てるという内容の遺産分割協議も可能です。すなわち、アパートの所有権と、その賃貸人たる地位を分離して相続・帰属させようとするものです。事例は少ないでしょうが、二次相続を考慮すると、相続税の節減にもつながると思います。
夫A名義の遺産の中には、実質的に妻Bの財産となる部分も相当含まれていることでしょう。一人暮らしの生活を確保するためにも欠かせない財源であるということを十分の理解してもらい、遺産分割協議に臨んでみてください。
ところで、毎月20万円のローン返済を継続していくためには、居住者(賃借人)を常に確保しておく必要があります。そのためには、居住者が快適に生活できるよう、賃貸物件(各室)の設備等を保持する必要があります。これに要する修繕費等の費用は、当面は1000万円の銀行預金から支出することになるでしょうが、最終的には、遺産分割協議によりアパート兼賃貸人たる地位を相続した者が、その分も負担することになります。
遺産分割協議により、銀行に対して1500万円の残債務を返済していく者が特定されたとしても、それは当事者間の対内的効力を有するに過ぎず、対外的に銀行を拘束するものではありません。これについて銀行の了解が得られない限り、その支払いが滞った場合、相続人は、銀行から法定相続分の割合に従った返済請求を受けることになります。
残念ながら、当事者間で任意の遺産分割協議が成立しなかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停申立ての手続きを取ることになります。その調停手続きでも協議が成立しない場合は、家庭裁判所の審判によって解決が図られるのが通常です。この場合は、法定相続分の割合が、重要な判断基準となってきます。民法は、現在の社会において、この法定相続分の割合こそが遺産分割をめぐる争いを適切に解決する基準であると判断し、法定化しているのです。
以上、夫の遺産について、適切な遺産分割協議が成立するよう、ご参考になさってください。