よくわかる不動産相続 Q&A File.13
週刊かふう2017年10月20日号に掲載された内容です。
新しい財産管理として注目される「家族信託」(前編)
半年間、担当しました島袋秀勝先生、尾辻克敏先生に代わり、今回から私、司法書士の中村敦がこのコーナーを担当することとなりました。同じく「不動産と相続」という課題で、問題解決のヒントや考え方、情報等を提供させていただきます。初回の今号では「家族信託」(前編)の解説。司法の視点からお悩みをお持ちの皆様の手助けになれましたら幸いです。宜しくお願いします。
Q.将来の相続について、相続税対策や遺族が財産の取得を巡ってもめることのないよう、対策を検討しているところです。
ところで、相続対策として、遺言や生前贈与の他に、「家族信託」という方法があることを聞きました。「家族信託」とはどのような制度なのでしょうか。
A.「家族信託」とは投資信託等とはまったく違うものであり、全ての方が利用できる画期的な制度です。
私たち司法書士は、毎日のように相続に関する相談を受けていますが、その中には残念ながら相続人間で相続財産の取得を巡って争うという事態、いわゆる「相続」が「争族」になってしまうことがあります。高齢化、核家族化や権利意識の高まり等から「争族」は近年増加傾向にあります。遺産相続争いは当事者間で話し合いがまとまらなければ家庭裁判所において遺産分割調停、審判となることがあり、解決までに長期間を要することが多く、関係当事者には大きな負担が生じることがあります。
そこで、そうならないようにと生前に相続対策の相談を受けることが多いのです。これまでは主に遺言書作成や生前贈与といった対策をとることが多かったのですが、ここで、新たに「家族信託」が相続対策の選択肢の一つとして加わりました。
多くの読者は、信託という言葉から連想するのは「信託銀行」とか「投資信託」等で、お金持ちの資産運用のイメージだと思いますが、「家族信託」とは投資信託等とはまったく違うものであり、全ての方が利用できる画期的な制度です。財産の多い少ないは関係ありません。わが国では信託法という法律は大正時代からありましたが、この法律が平成18年に大改正され、平成19年に施行され、そこから家族信託は誰でも自由に活用できる身近な財産管理の手法となりました。しかしながら家族信託は施行されてまだ10年と歴史が新しく、これまでは実例も決して多くはありませんでした。ところが、ここ数年で急速に注目を集めるようになり、家族信託を利用する方々が増えています。なぜ、家族信託の利用が増加しているのか、それは、家族信託が、一人一人の家庭の事情や財産の状況に応じて自由に具体的内容を決めることができること、これまでの法律では実現ができなかった事についても、家族信託を活用することによって実現することができるようになったことが要因ではないかと思います。
一人一人の思い、家族や財産の状況はさまざまです。認知症になった後の財産管理、資産運用や相続税対策の事を心配している者、先祖代々の財産の承継を孫やひ孫の代まできちんと決めておきたいと考えている者、親族に自立して生活を営むことが困難な者がいて、親の亡き後も継続して支援してもらいたいと願う者、こうした一人一人の実情に応じた柔軟な財産管理や財産承継が家族信託を活用することによって実現できるのです。ただし、家族信託は自由性や柔軟性に優れている反面、その活用には十分な注意が必要になります。そこで、次回以降、家族信託について、また、その活用場面や注意点を解説していきたいと思いますので、ご参考になれば幸いです。
※「家族信託」という用語は正式な法律用語ではありません。信頼できる家族に財産の管理処分を任せる信託という意味で一般社団法人家族信託普及協会により商標登録された用語です。本原稿では同協会の了承のもと「家族信託」を使用しています。