よくわかる不動産相続 Q&A File.23
週刊かふう2018年3月16日号に掲載された内容です。
「所有者不明土地問題」とは?
今国会において、所有者不明土地に関する特別措置法案が提出される見通しです。所有者不明土地の円滑利用の仕組みや適切な管理のための措置、所有者探索を合理化する仕組み等が改正内容になっています。所有者不明土地問題を知り、相続登記の重要性を理解しましょう。
Q.具体的にどういった問題なんですか?
新聞やテレビ等で「所有者不明土地問題」について聞いたのですが、具体的にどういった問題なんですか?
私たちにも何か関係があるのですか?
A.「所有者不明土地」とは、不動産登記簿の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しておらず、または判明しても所有者に連絡がつかない土地のことを言います。
「所有者不明土地」とは、不動産登記簿の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しておらず、または判明しても所有者に連絡がつかない土地のことを言います。具体例としては、不動産登記簿が長期間登記がなされておらず、現在の所有者を特定することが困難であったり、所有者は特定できたが、所有者の所在地(転出先、転居先等)が不明であったり、登記名義人が死亡しており、その相続人が多数になっているといったケースです。国土交通省が平成28年度に地積調査を実施した地区においては、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地は約20%となっています。この調査から推計すると所有者不明土地面積は全国で約410万ヘクタールあり、九州本島の土地面積約367ヘクタールよりも大きく、さらに2040年頃には約720ヘクタールになると言われています。これは北海道本島の土地面積約780ヘクタールに匹敵する大きさです。またこれに対する経済的損失は少なくとも、約6兆円(2017年から2040年の累積)とも言われています。
こうした所有者不明土地は、公共事業や民間の事業を実施するうえで土地の円滑な利用を阻害する要因になっています。現在の法制では、土地収用法に基づく不明裁決制度や民法の財産管理制度、遊休農地の活用や森林の間伐のための制度が存在し、それに基づき処理されてきました。しかし、それぞれの手続きに時間や費用、労力を要する場合があることや、適用できる場面が限られることなどの課題がありました。
国土交通省は、今国会において所有者不明土地に関する特別措置法案を提出する見込みです。所有者不明土地の円滑な利用および土地の所有者の効率的な探索を図る狙いがあります。具体的には次の4点が法案の骨子になります。
①所有者不明土地を円滑に利用する仕組み
②所有者の探索を合理化する仕組み
③所有者不明土地の適切な管理のための措置
④地方公共団体の民間主体への支援・サポート
中でも注目されるのが「利用権」の創設です。
不明者が現れる可能性が低い土地について、一定の公益性を持つ事業(公園、緑地、広場等)や生活環境の向上など地域住民等の福利の増進に資する事業(購買施設、文化教養施設等)を対象とし、国や地方公共団体等の公的機関だけではなく、民間事業者も事業の主体になれます。利用期間の上限は10年間とし、不明者が現れ、土地の明け渡しを求めた場合には、期間満了後に原状回復して明け渡すことを原則としています。不明者が現れず、判明しても異議がない場合は、延長も可能です。建築物がなく、現に利用されていない所有者不明土地を公益的目的等で利用する一定の場合、土地を暫定的に使用することができるようになります。
所有者不明土地が発生する要因の一つとして考えられるのが、長期間相続登記がされていないことが挙げられています。相続登記は本来義務ではないことから、放置されやすいと指摘されています。しかし、所有者不明土地が増えると、街づくりの面での土地利用や取引の停滞、治安悪化、国土荒廃等、さまざまな弊害が生まれることになります。相続登記未了土地を解消していくことが、所有者不明土地をこれ以上増やさないことにつながりますので、速やかに相続登記を行うことが重要といえます。