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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

毅然として山中に建つ時を奏でる第二の邸宅

毅然として山中に建つ時を奏でる第二の邸宅

DATA
設  計: 松島デザイン事務所
      (担当/松島良貴)
敷地面積: 644.2㎡(約194.9坪)
建築面積: 87.64㎡(約26.5坪)
延床面積: 87.64㎡(約26.5坪)
用途地域: 無指定
構  造: 鉄筋コンクリート造平屋建て
完成時期: 2021年11月
建  築: 松島デザイン事務所
型  枠: 松島デザイン事務所
      (担当/松島良貴、金城敦)
電  気: 松島電気工事株式会社
     (担当/親里英仁)
水  道: 泉水設備株式会社
     (担当/新里紀章)

リタイア後の生活拠点として、生まれ故郷近くの山中にコンクリート打ち放しの平屋を新築し、第二の人生をスタートしたSさんご夫妻。室内外からやんばるの大自然を望み、趣味の音楽も存分に楽しめる、贅沢なプライベートリゾートです。

週刊かふう2022年4月15日号に掲載された内容です。

毅然として山中に建つ時を奏でる第二の邸宅

有限な人生を無限に楽しむために 積年のライフプランをかなえる

 やんばるの奥地、見渡す景色は、山、山、山。室内に鋭く切り込んだテラスステージの一角に座って、Sさん自慢のギターを鳴らせば、音色はたちまち谷から丘にこだまして、上空を舞う鳥たちは大歓声。日が暮れれば満天の星空がともり、スターライトが降り注ぎます。
「本島南部にいた現役時代とは一転した静かな毎日。趣味の音楽仲間を呼んで存分に演奏を楽しむこともでき、第二の人生を謳歌するには最高の環境ですね」

 新居は長さ約19メートルの直方体の箱に、寝室や水回りが付随したシンプルな造り。東端のキッチンから西端のピクチャーウインドーまで、真っすぐに見通せるコンクリートの空間の真ん中には、野趣を届けるテラスステージが介在しており、屋内外の不思議な一体感が生まれています。

 構想10年、建築5年。「リタイア後は故郷近くの新しい住まいで」というSさんの人生設計は、現在の土地を取得してから具現化しました。山を開いて地盤を整え、いよいよ本腰を入れて計画実行と思った矢先に、東日本大震災が発生。建築費が高騰し、一時中断を余儀なくされました。

 家づくりの相談は、親類宅の設計を手がけた建築家に一任しました。過去の作風はもちろん、実直な人柄と仕事ぶりに好感を覚え、「これからの人生を預けられる」と全面的に信頼。提案された住宅模型もすべて納得のいくもので、幾度かのバージョンアップを重ねた後、現在の形に落ち着きました。

 資材価格がなかなか落ち着かないなか、計画再開を決断したのは、過ぎゆく歳月の重みを感じてのことでした。「人生は有限。待っているだけでは何も進まない」。強固な意志は次々訪れる工事の難局をも切り開き、昨年11月に宿願の「セカンドライフ・ハウス」が完成しました。

毅然として山中に建つ時を奏でる第二の邸宅

堅固な壁に囲まれた安心感と 大自然に抱かれた開放感

 内外装はともにコンクリートの打ち放し。やんばるの大自然と対峙する環境下にあっても、堅牢なシェルターに包まれているような安心感があり、一定の相似比をもとに寸法が決められた均整の取れた空間は、何をするにも無意識になじんで居心地を高めます。
「床面積は約27坪。“リタイア後の別荘”と言うと何だかものすごい豪邸をイメージしがちだけど、実際は市井の人間がコツコツと働き、コツコツとためた資金で建てた身の丈サイズの家です。当初は簡素な山小屋でいいと考えていたくらいだから、私にとっては十分に豪邸ですけどね」

 屋外のテラスステージは一辺8.1メートルの正方形で、広がる視界は180度。東側の一部を囲う丸みを帯びた外壁は、建築家から提案を受け計画途中に追加されたもので、「山中にポツポツと建つ家が視界に入らないように向きが配慮されている。住んでみて初めて気が付きました」。円弧を描くこの外壁は、LDKを挟んで反対側の玄関・水回りまで連続しており、Sさん宅を上空から俯瞰(ふかん)すると、四角と丸を組み合わせたユニークな形状であることが分かります。

 Sさんが一人演奏する時の三角形のスペースは、庇に覆われているため夏の暑さも心配なく、心を解放してボーッと景色を眺めるだけでもよし。テラスの真ん中には、これも建築家の粋な計らいで囲炉裏がしつらえてあり、「音楽仲間を呼んで早くバーベキューをしたいんだけど、冷蔵庫がまだ準備できてなくて」。
 それにしても最高のコンサートステージで、聴衆が鳥たちだけなんてもったいない。やんばるの森をドライブ中、どこからともなくご機嫌なメロディーが聞こえてきたら、Sさん率いる音楽隊の演奏かもしれません。

写真ギャラリー

毅然として山中に建つ時を奏でる第二の邸宅

森の中に攻め込み、溶け込む。自然と建築の新たな関係性を問う

安全な居住環境を確保した上で、周囲の自然との調和を図る
無意識に居心地を高める、規則的で規律のとれた空間構成

建築家/松島良貴さん(松島デザイン事務所)

 人が住む空間、つまり内部空間と外部の自然との関係はどうあるべきか。明確な境界によって両者を断絶するのではなく、お互いの距離を近づけるような設計がやはり望ましいのではないか。Sさん宅のプランニングに際し、日本全国の建築をはじめ、沖縄と気候がよく似た東南アジアの事例を数多くリサーチしました。しかし、荒々しい原生林に覆われた計画地を見るにつけ、いたずらに「自然との一体化」とは言っていられない、まずは山中深く勇気を持って攻め込んで、安全な居住スペースを確保することから始めるべきと考えました。その意味で、これまで手がけてきたコンクリート住宅の経験はとても有効でした。

 計画当初は、LDKと寝室を収めた真っすぐな箱に、水回りを付帯しただけのプランでした。コンクリートに覆われた武骨な空間にみずみずしい周囲の景色を取り込んで、西の窓からは隣地の丘を彩る木立がのぞき、東の窓からはやんばるの美しい山並みを鑑賞できるように。屋外のテラスは、ギターが得意で音楽仲間が多いSさんのライフスタイルに合わせて、演奏ステージ兼眺望スペースとして後から設置しました。もちろんそれだけでも自然との一体感は存分に味わえるものの、深い山中ならではの迫力をより感じられる空間にしたいと考え、正方形のテラスを45度回転して室内に「介入」させ、内と外のさらなる融合を図りました。

 形態面では平面図を見ると分かるように、Sさん宅は長方形・正方形・正円の3図形で外観を構成しています。シンメトリーを意識して、細長い居住空間と円弧を描く外壁の中心をそろえるなどバランスを整え、テラスが室内に切り込んだ部分、つまりSさんの演奏スペースが建物全体のセンターに来るようにそれぞれの位置関係を決定しました。また相似形を成す安定した形態は無意識のうちに安心感を高めると考え、あらゆる要素の基本単位を2.7メートルに設定。例えば室内は、向かい合う壁芯の距離と天井高を2.7メートルで統一した正方形が連続した空間で、キッチンと寝室を結ぶ東西両端の長さも2.7の倍数です。円形の外壁の半径やテラスのサイズなども同様に算出し、全体の一部が全体と自己相似した均整の取れた構造になっています。

設計・施工会社

中城村字南上原817 南上原ハイツ(B棟)

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