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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

豊かな眺望をまとった 正六面体の家

豊かな眺望をまとった 正六面体の家

DATA
設  計: 松島デザイン事務所
     (担当/松島良貴)
敷地面積: 341.87㎡(約103.4坪)
建築面積: 65.61㎡(約19.80坪)
延床面積: 148.83㎡(約45.10坪)
用途地域: 無指定
構  造: 鉄筋コンクリート造3階建て
完成時期: 2021年12月
建  築: 松島デザイン事務所
電  気: 株式会社松島電気工事
     (担当/親里)
水  道: 泉水設備株式会社
     (担当/新里紀章)
キッチン: 松島デザイン事務所
     (担当/松島良貴、金城敦)

海と山に挟まれた風光明媚な土地に、コンクリート打ち放しの3階建ての家を新築。
すべてのフロアには眺望とセットになった居室が用意され、
くつろいだり趣味を楽しんだり、テーマに合わせて過ごせるように設計されています。

週刊かふう2022年7月15日号に掲載された内容です。

豊かな眺望をまとった 正六面体の家

見せるvs見せたくない
相反する思いを同時にかなえる

 目の前には海が広がり、振り返れば山がそびえるリゾートフルな特等地。海沿いの国道近くに建つHさんの新居は、家のどこにいても周囲の豊かな自然が感じられ、無意識に飛び込んでくる日常の視界には常に海や山の風景が投影されています。
「想像していた以上の快適さですね。視界をただオープンにするのではなく、見え方も丁寧に計算して設計してくれているのがよく分かります」と話すHさん。例えばオーシャンビューのリビングやベッドルームは、部屋の最奥部からでも景色が楽しめるように。山側の個室はほどよいおこもり感があって、プライベートな作業に没頭できるように。3つのフロアにはそれぞれに、眺望とセットになった居場所が用意されています。

 やんばる赴任後に現在の土地を購入し、ゆっくりと家づくりを始めたのが2年ほど前。デザイン面のこだわりはほとんどなく、全体的な構成や空間の取り方にウエートを置き、専門的な話を聞いて回りました。つまりは依頼した建築家が最も要望を満たす回答を返してくれたわけですが、「最初に探りを入れて方向性を確かめるようなことはせず、ファーストプランから全力投球。何気ない会話まで事細かく拾い、具現化してくれました」。

 Hさんの要望の根底には、「ゴチャゴチャと物を置かず、すっきりと整った空間で暮らしたい」という基本スタンスに加えて、「置き場所に困っていた趣味の小物や服飾類がたくさんある。せっかく家を建てるのなら、表に引っ張り出して日の目を見させてあげたい」という相反する思いがありました。果たして前者の出来栄えは、ご覧いただいている写真の通り。一方で後者の思いをかなえたのが、1階から3階まで真っすぐ貫通した鉄骨製のショーケースです。周囲にはらせん状に階段が配置され、昇降するたびにお気に入りのアイテムを見られる仕掛けになっています。

豊かな眺望をまとった 正六面体の家

自分のためだけにつくられた空間を手に入れた喜び

 Hさん宅の外観は、正六面体のきれいなサイコロ形。仕上げは全面コンクリートの打ち放しで、一部を杉板型枠の木目で化粧しています。内装も同様に打ち放しを基本にしつつ、リビングとベッドルームには無垢材のフローリングを施工。無機質なコンクリートと木の温かみある雰囲気が融合し、居心地のよさを演出しています。

 フロアの構成は1階に駐車場と書斎があり、2、3階を生活のメインスペースに充てています。2階リビングには内外の緩衝帯として半屋外のテラスが隣接し、外壁にくりぬかれたピクチャーウインドー越しに海を眺めながら、つかの間一服する空間に。このテラスは3階ベッドルームまで吹き抜けになっており、朝起きて屋外を望むと、上部の庇に誘導されるように海まで視線が流れていきます。

 海側で屋外にダイレクトに面しているのは、3階バスルームのみ。ここは設計時に唯一、設置場所を強く要望したスペースで、「北部の冬は冷えますからね。引っ越し直後は一日2回使うこともあり、重宝しました」と振り返ります。
「今までずっと借家住まいだったので、自分のためにつくられた空間があること自体が何だか不思議な感覚です。言葉で説明するのは難しいのですが、何をしても受け入れてくれるような安心感もあり、住み始めて半年たった今でもその余韻が続いています」。

 くつろぎ度が高すぎて、「趣味のスペースを生かし切れていない」ことが目下の反省点。書斎にこもって作業に集中し、ショーケースを埋める日が来るのはいつになることか。とはいえ誰かに配慮する必要もなく、その時々の気分と向き合いつつ、気長に構えています。

写真ギャラリー

豊かな眺望をまとった 正六面体の家

厳しい自然環境に毅然と対峙する、人工物然とした形状デザイン

周辺環境に即してフロアごとにテーマを定め、各空間を編成
海と山=動と静。それぞれの眺望を楽しめる工夫を随所に


松島デザイン事務所 建築家:松島良貴さん

 自然の美しさと怖さは表裏一体です。その懐深く飛び込むほどに、得られる魅力は増しますが、人が人として生活する上でのリスクも高まります。今回の計画地は、海と山に挟まれた風光明媚な環境にあり、西も東も見晴らし抜群。私の中では最初から守りに入る意識は毛頭なく、建築的にきちんとケアしながら、圧巻の眺望とともにある日常をぜひHさんに届けたいと考えました。

 前面道路と比べて海沿いの国道が一段高い位置にある関係上、2階建てではなく3階建てのプランを提案し、フロアごとにテーマを設定。具体的には、1階は地域との「親和性」を重視して、周囲を歩く人と同じ目線で家に出入りするように。2階は国道を走る車やバス停にいる人と視線が重なるのを避け、床レベルを国道より高めにして「優位性」が保てるように。そして3階は最上階ならではの視界の広さを生かし、「非日常性」が感じられるように。特に2、3階は、フロアの最奥部まで海の眺めを引き込みつつ、2階は外壁のピクチャーウインドーで風景を切り取り、3階は全面ガラス張りにするなど、見せ方にも変化をつけています。

 一方で山側には、海側の部屋から完全に切り離されたコンパクトなスペースを設け、各フロアの同じ位置に配置して三層に重ねました。海側のオープンな雰囲気とは一転して、やんばるの深い緑を望みながら趣味に浸ったり料理をしたり、落ち着いた時間を過ごすことができます。

 脅威と隣り合わせの環境で、安心して眺望を楽しめるのは、建築的に安全性が担保されているからこそ。材料面では打ち放しのコンクリートをはじめ、鉄、ガラスといった人工物をメインに使い、気まぐれな自然と対峙。また自然界は不規則の連続で、非対称性が常であるなら、Hさん宅の外観は、人の住居であることを強調するために、規則性・対称性をまとった正六面体でデザインしようと考えました。

 この他、今まで手がけてきた過去の作品と同様に、相似形を成す安定した形態は無意識のうちに安心感を高めると考え、あらゆる要素の基本単位を2.7mに設定しました。例えば各部屋の平面は2.7m角の正方形を基準にして設計し、外観の一辺の長さは2.7の倍数である8.1mに、そして外観の建築高さも同じく8.1mにそろえるなど、全体の一部が全体と自己相似した均整の取れた構造にしています。

設計・施工会社

中城村字南上原817 南上原ハイツ(B棟)

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