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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

多様な生活の場を包み込む 大きな片流れ屋根の家

多様な生活の場を包み込む 大きな片流れ屋根の家

DATA
設  計: 株式会社アトリエ セグエ
     (担当/比嘉俊一)
敷地面積: 423.22㎡(約128.02坪)
建築面積: 158.91㎡(約48.07坪)
延床面積: 128.34㎡(約36.95坪)
用途地域: 指定なし
構  造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2022年7月
建  築: 琉幸建設株式会社
     (担当/比嘉利夫)
電  気: 有限会社南光電気設備
     (担当/太田祐介)
水  道: 株式会社トップライン
     (担当/具志堅晃)
キッチン:  MOV
     (担当/照屋涼子)

「建築家と一緒にこだわりの家を建てたい」とかねてから考えていたYさんご夫妻。
2022年7月に完成した念願の新居は、内観・外観ともに片流れ屋根のフォルムを生かして居住性に富んだ「住んで楽しい家」になりました。

週刊かふう2023年6月9日号に掲載された内容です。

多様な生活の場を包み込む 大きな片流れ屋根の家

建築家の力を借りて、住んで楽しい家を建てる

 床のレベルが異なる居室群と、それらを大きく包み込む片流れ屋根。Yさん宅を眺めていると、住宅とは3次元で構成された立体物であることを再認識させられます。一つ一つの空間は、全体的な連続性を保ちながらも縦・横・高さの変化に富み、場所を移るごとに元の感覚がリセットされて、常にフレッシュな気分が湧き上がってきます。

「住んで楽しい家にしたかったんです」と振り返るご夫妻。
「私たちだけで話し合っていると、知識や想像力にはどうしても限界があり、標準的で無難な方向に寄っていってしまう。だからプロの力を借りて、まったく違った視点からプランを出してもらい、20年先、30年先までずっと楽しく暮らせるような住まいをつくりたかったんです」。
 5年ほど前に土地のめどがついて以来、理想の新居を求めて設計事務所を巡ること幾度。依頼した建築士とは考え方やフィーリングが合ったのはもちろん、いつしかの会話で「しっかりした家をつくりますから」と言われた一言が深く胸に残っていました。

 家づくりに際してもう一点、お2人が強く望んだのは「自然豊かな周囲の景色を取り込みたい」ということでした。計画地一帯は、宅地よりも畑や原生林が圧倒的に多くの面積を占めており、敷地南西の隣地住宅を除いた三方向には奥行きのある視界が開けていました。基本設計がまとまるまで、建物の造形や居室の配置については変更・微調整を繰り返しましたが、「緑の眺望があること」だけは終始一貫していました。新居ではリビング・子ども室・主寝室の窓からそれぞれ別方向の緑を望み、さらには敷地南西側の芝庭に面して和室を置くなど、どこにいても自然の潤いを感じられる環境になっています。

多様な生活の場を包み込む 大きな片流れ屋根の家

勾配天井が生む開放感と段差がもたらすリズム感

 片流れ屋根を強調した外観フォルムはインパクト大。建築作品としての風格を漂わせつつ、築後1年弱にして既に周囲の景観に溶け込んで見えるのは、Yさんの要望に添って生まれた無理のない形態だからでしょう。
「ユニークさと快適さを併せ持つ期待通りの家に仕上がりました。地元で実績のある建築会社さんが施工を手がけ、”お付き合いはこの先ずっと続くから”と言ってくださったのもうれしい限り。安心して暮らせますね」。

 生活のメインスペースであるLDKは、約30帖の広さがある直線的な空間で、敷地西側に茂る林を目がけて視界が真っすぐに抜けていきます。屋根形状を生かした勾配天井は最大4メートルの高さがあり、天井付近に並んだハイサイドライトが開放感を一段と高めています。またキッチンの東側奥には家族共用のスタディースペースが、リビングの北隣には子ども室がそれぞれ連なっており、2人の子どもたちは今のところ「勉強と遊びで上手に使い分けている」とのことです。

 床レベルの異なる空間構成は、無意識のうちに生活にリズムを与えています。例えばLDKを基準にすると、スキップフロアの主寝室は1メートルほど高い位置にあり、一方で小上がりの和室はステップを2段下がった廊下沿いに置かれています。どちらもキッチンの目と鼻の先にあるにもかかわらず、「わずかな段差を挟むだけで見える景色が変わり、実際の数字以上の距離感が生まれる。段差は腰掛けにぴったりだから、それ自体が居場所にもなりますね」。
 家族のライフステージの変化に合わせて、それぞれの空間はどんな使われ方をしていくでしょうか。大きな片流れ屋根の下、「住む楽しさ」は至るところに無限に潜んでいるはずです。

写真ギャラリー

多様な生活の場を包み込む 大きな片流れ屋根の家

豊かな自然の景観と素材の経年変化を同時に楽しみ、時間を静かに積み重ねていける住宅を

深い庇と一体化した大きな屋根で生活空間を守りつつ、光と風、景色を積極的に取り込むスキップフロアを含め、床レベルの異なる空間をちりばめて、暮らしの中に多様な場をつくる。

一級建築士:比嘉俊一さん

 周辺環境を含めた敷地固有の条件を生かすとともに、住宅の本来的な目的である「シェルター」の役割をきちんと果たし、その上で施主さまの要望に応えた快適な室内空間をデザインする。今回のYさん宅のプロジェクトは、「周囲に畑しかないような一角に、広々とした敷地がある。30年先まで住んで楽しめる住宅を設計してほしい」と相談を受けたことを機にスタートしたもので、先の3つのポイントを同時に満たすアプローチが求められました。

 計画地は南東側道路に面し、隣地住宅が建つ南西以外の三方は視界が開け、畑や原野を見渡すのどかな環境。特に北から西にかけてはサトウキビ畑や原生林が奥行きを持って生い茂り、海とは趣の異なる「沖縄らしい生命力あふれる自然」が感じられました。裏を返せば、それはほぼ「野ざらし」の状態であることを意味し、強烈な日差しや台風、大雨など沖縄特有の自然の猛威に対して建物単体での配慮が必要でした。

 そのためまずは、前面道路から敷地の長辺方向に沿って住宅の軸線を定め、緑豊かな眺望を室内に取り込めるように、北西面の開口部をピクチャーウインドーとして計画。建物の造形的には、雨仕舞いに有利で耐久性に優れ、見た目もスタイリッシュな片流れ屋根を採用し、主寝室側・リビング側両サイドに大きく庇を延ばして日射遮へいと採風を同時に図りました。

 室内空間は片流れ屋根の勾配をそのまま生かし、最小220~最大400センチの天井高さを創出。その上で主寝室をスキップフロアにしたり、LDKと廊下の間に段差を設けたりしながら緩やかに複数のレベルをつなげて、リズミカルで変化に富んだ楽しげな雰囲気を目指しました。
 仕上げ材も厳選を重ね、例えばフローリングはケンパスの無垢材を、家具・建具は天然木の合板をそれぞれ採用し、赤みを帯びた色鮮やかなその木目は、宅内を貫通するコンクリート打ち放しの大壁と相性が良く、経年による風合いの変化も楽しめます。
 緑豊かな自然の景色を享受しながら、住まいそのものの移ろいを慈しむ。そうした暮らしの積み重ねが、いつしか30年という年月にたどり着く日まで、設計者である私もYさんと一緒に見守っていきたいと思います。

設計・施工会社

浦添市西原4-33-1

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