緑豊かな景観を楽しみ 内外の開放感にくつろぐ
- DATA
- 設計: 有限会社 門一級建築士事務所
- 敷地面積: 231.00㎡(約69.87坪)
- 建築面積: 82.77㎡(約 25.03坪)
- 延床面積: 114.48㎡(約 34.63坪)
- 用途地域: 指定なし
- 構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2024年5月
- 建 築: 有限会社 丸義建設
(担当/野原篤) - 電 気: 株式会社 大幸電設
(担当/玉城学) - 水 道: 有限会社 共同工業
(担当/新垣真治) - キッチン: 大里総合建材 株式会社
(担当/大城盛正)
深い緑に囲まれた小高い丘の稜線に建つSさんのお住まい。
その風景を楽しむワイドなハイサイドライトをはじめヒンプンや地窓、テラスの腰壁が、建物の内に開放感を創造しています。
週刊かふう2025年3月14日号に掲載された内容です。
周辺の景観を取り入れ、内外の開放感を整える
海抜50メートルを超える小高い丘に建ち、視線の先に広がる大自然が育んできた緑の風景、その向こうへ開けるおおらかな空。長いアプローチを進んだところに駐車場があり、表面をビシャン仕上げ(石材の粗面仕上げ)にしたヒンプンの内側に、風が心地よく通り抜けるテラスを配置したSさんのお住まい。
LDKへ足を進めると、バナナの葉が風に揺れる景色をワイドな額縁で切り取ったようなハイサイドライトに目が奪われます。
LDKや和室がゆったりとつながりながら開放的な空間を共有するレイアウトに、居心地の良さを感じます。リビング開口部の向こうは先ほど見たテラス。そのフロアは洗い流しに仕上げるなど、視線の先々で丹念に施工されたデザインに出会える喜びがあります。
「“子どもたちの水遊びの場に”と考えていましたが、2階テラスの方が広いので、そちらで遊ぶようになりました」と奥さまが普段の様子を話してくれました。
和室には地窓、主寝室にはハイサイドライトと地窓、2階の廊下にも地窓を採用して、恵まれた周辺環境の風景と自然光を取りこみながら、外部からの視線は上手に遮る工夫があちらこちらに凝らされています。
使い勝手を考えた収納を各所にさりげなく配置
効率的な家事動線をかなえるアイランドキッチンの下部は、シンク側とリビング側の両方に収納スペースを内包するモデル。壁側に造作したロングカウンターは、手持ちのゴミ箱がすっきりと収まる高さに設定し、引き出し式にすることで奥にしまったモノもラクに取り出せます。またカウンター右端は、コンセントや書棚も備えた奥さまの家事スペースに仕上げています。
「現在は、子どもがキーボードを練習する場所としても使っています」と説明する奥さま。
キッチン横にある階段下の収納は日用品のストックを入れているほか、お子さんが生まれたときに贈られた泡盛の甕も保存しているとのこと。
和室では小上がり下の引き出しや板の間部分に吊り棚を、またリビング向けにドアを開閉する大容量の収納部も造作してもらいました。
2階にある趣味部屋は、コミックやフィギュアを中心に多趣味なSさんの宝物をぎゅっと詰め込んだ空間。「私はプランの打ち合わせ段階で“趣味部屋さえあれば”とお願いしました」と楽しそうに回想するSさん。収めるモノのサイズに合わせ、向かい合う壁2面の床から天井まで収納棚を計画するなど、圧巻の仕上がりとなっています。
またユニークなところでは、2階・階段ホールの仕切り壁に追加された約10センチ四方の飾り窓や、屋内から配達物が取り出せる玄関の郵便受けなどがあり、生活上の機能性と遊び心を楽しむアイデアがスタイリッシュにちりばめられています。
共働き夫妻の毎日に豊かな暮らし心地を
お父さまが所有する土地を譲り受けてマイホームを建てたSさん夫妻。近隣に身内が住む恵まれた場所にあり、子育ての面でも助かっているそうです。
新築するにあたり、旧宅で不便に感じていた点も解消できました。
「旧宅では子どもたちのおもちゃが散らかっていましたが、ここでは全部、収納スペースに片付けることができます」とSさん。
また、刻一刻と表情を変える自然に囲まれた周辺環境についても満足しているとのこと。
「日々の景色はもちろんですが、嵐の日もキッチンのハイサイドライトからダイナミックな光景を楽しめます」とにこやかに話すSさん。
ソーラー式の小さなランタンをヒンプンの上や、自家菜園の周辺に数個置いて、薄暮から深い群青色の夜空へと変わる景色に、心あたたまるような明かりをともしています。
周辺の景色を住まいに取り入れて設計で「視線」を美しく誘導する
有限会社 門一級建築士事務所
プランを考えるときは、光と風の向き、どの方角へ開口部を配置するかなど、ベーシックな点からスタートします。Sさんのお住まいは南東に向けて開けており、そこにリビングを配置した採光計画を練りました。2階の子ども部屋はフィックス窓とすべり出し窓を組み合わせて、自然光が差し込む明るい部屋に仕上げています。
Sさんのお住まいは海抜50メートルを超える丘陵地の尾根にあり、遠い谷の向こう側からも見える位置。そこでファサードはもちろんですが、全方位から見られてもスタイリッシュな意匠へと整うよう、配管などの位置を緻密に調整しました。
また周辺に広がるサトウキビやバナナ、そして自然の草木が茂る緑豊かな環境を屋内に「景色」として融合させるよう試みました。その代表的なポイントが、キッチンに設けたワイドなハイサイドライトです。リビング開口から続くテラスの前は、外部からの視線が室内に届かない高さを精査したヒンプンを立てました。2階テラスの腰壁も、近隣の建物を視界に入れず、その向こうに広がる大空を眺められるような高さに設定しています。これらにより、プライバシーに配慮しつつ建物の内外に開放感が広がる空間計画を実現しています。
1階のハイサイドライトはLDKのフォーカルポイントですが、そこから視線がほかの空間へ移動するときスムーズに誘導するよう気を配りました。例えば和室の地窓の高さは、Sさんがお手持ちのAVシステムと同じ高さにしています。サッシ枠や液晶テレビの濃い色はアクセントとなるため視線が行きがち。その高さをそろえることで、視線を流れるようにつなげることができます。一方、水回りの仕切り壁に高低差をつけて視線を奥へと誘導し、実寸以上の奥行きを感じるよう工夫した箇所もあります。
階段の手すりに使ったアイアンはサッシと同色のダークグレーを配色して白壁とのコントラストを際立たせて、昇降する度に次々と変化する見え方を楽しめるデザインへ。登り切ったところの仕切り壁を約10センチ四方くりぬき、半透明ケースに入れたグッズをディスプレーできる飾り窓を設けています。ときどき中のモノを入れ替えて楽しんでいただけるとうれしいですね。また空調機の冷媒管の配管など見えない箇所も、現場で細かく調整して仕上げました。
建物の内外の「景色」を違和感なくつなげて、「何事もない、スムーズに暮らせる家」を最近のテーマに据えて、心地よい住まいづくりに取り組んでいます。
設計・施工会社
門(じょう)一級建築士事務所
TEL:098-888-2401 | http://www.jo1q.com/