高性能&エコで快適。やんばるの河畔に建つ 沖縄仕様のパッシブハウス
- DATA
- 設 計: アトリエガィィ
(担当/佐久川一、佐久川達美) - 敷地面積: 186.16㎡(約56.31坪)
- 建築面積: 80.17㎡(約24.25坪)
- 延床面積: 148.71㎡(約44.98坪)
- 用途地域: 区域区分非設定
- 構 造: 木造2階建て
- 完成時期: 2022年10月
- 建 築: 株式会社具志頭工務店
(担当/具志頭孝也) - 電気・水道:合同会社明正電気工事社
(担当/比嘉祐作) - 木工事: グレイン(担当/浅井大希)
楽しく快適な生活を送ることがおのずと環境貢献につながるのなら、言うことはありません。今回ご紹介するFさん宅は、厳しい基準をパスした世界レベルにエコな家。沖縄の気候や地域特性を加味した設計上の工夫もポイントです。
週刊かふう2023年7月21日号に掲載された内容です。
ライフスタイルに合ったエコな住まいを模索
エコ住宅とは具体的にどのようなものでしょうか。冷暖房機器に極力頼らない、いわゆる昔ながらの暮らし方を重んじる家を指すこともあれば、太陽光発電などで積極的に創エネを行い、家全体のエネルギー収支がゼロ以下になればよしとする考え方もあります。
学生時代に環境分野を専攻・研究し、豊かな自然に引かれて結婚後にやんばるへ移り住んだFさんご夫妻にとって、家づくりの場面で「エコな住まいのあり方」を模索するのは半ば自然な流れでした。
まずは自身のライフスタイルを見つめ直し、「沖縄のような蒸暑地域で、真夏や梅雨時でも快適に過ごすには、エアコンなどの設備はやっぱり必要」と方向性を定めることが出発点。その上で「環境負荷を抑えるにはどんな仕組みがベストなのか」をとことん調べ上げ、「パッシブハウス」と呼ばれる設計手法に深い共感を覚えました。
パッシブハウスとは、1990年代にドイツで開発された超省エネ住宅です。世界的に見ても極めて厳格な断熱性・気密性を認定基準にするとともに、評価対象の一つとして、建築地の気候や周辺環境への配慮を求めている点が特徴です。
マイホームの計画を始めた8年前、国内では30棟前後の建築事例がありましたが、沖縄はゼロ。それでも持ち前の知的好奇心と行動力で内地まで勉強に訪れ、「これしかない」と志を固めました。
家づくりのパートナーには、県内で40年以上、ユニークで普遍的な建築を編み出し続けるアトリエ事務所を選びました。もちろんパッシブハウスは初めての挑戦になりますが、「沖縄の自然と調和した住宅を数多く手がけており、どの作品を見ても時代を超越した色あせないデザインばかり」であることが、お2人の志向と根底でつながっていると感じました。結果としてパッシブハウスの基準を満たしつつ、建築家の経験知が存分に発揮された「ハイブリッドな家」ができあがりました。
高気密・高断熱プラス全館空調で家中の快適な温湿度を保つ
Fさん宅が建つのは、下流域にマングローブが群生する川のほとり。家々が身を寄せ合うようにして並んだ小さな集落内にあり、川が流れる西方だけは視界が開け、対岸には緑豊かな山並みが広がっています。
新居が完成したのは昨年10月。地盤面からコンクリートでかさ上げした上に2階建ての木造家屋を構築し、生活のメインスペースであるLDKを2階に置いたのは、川が氾濫した時の浸水リスクに備えてのこと。昔の沖縄民家よろしく”雨端”で玄関を代用し、リビング併設のテラス空間が家の入り口の役割を果たしています。
「間取りやデザイン以上に、最もこだわったのは建物の外皮部分ですね。強烈な日射や高温多湿の外気に建築としてどう対処すべきか、時間をかけて検討を重ねました」と振り返るご夫妻。
例えば今挙げたテラス空間は、深い庇と斜めに組んだ木格子で覆われており、西日を効果的に遮へいします。窓の計画も、熱の出入りを最小限に抑えるべく、サイズや数、外付けのルーバーの向きなどを緻密に計算しました。
屋根と壁に隙間なく断熱材を施工して気密性・断熱性を高め、全館空調を導入した室内は、真夏でも空気が澄んでサラッと涼やか。さらには2階リビングの床と天井の一部を格子板にするなど、建築的な工夫・配慮を施したことで循環効率が向上し、プライベートスペースをまとめた1階から、リビング頭上にある吹き抜けスペースまで、ボタン操作一つで瞬く間に温湿度が整います。
生活の場として眺めても、段差やスキップを巧みに生かしたフロア構成は遊び心がいっぱい。お2人は施主本人プラス客観的な目線で新居の快適さを評価しつつ、「沖縄でのパッシブハウスは初の試みであり、モデルケースとしてデータもとっていく予定です。環境負荷をかけずにこれほど心地よい暮らしが送れることを、多くの人たちに発信していきたいですね」と話しています。
写真ギャラリー
歴史・風土に根ざした設計手法と
環境技術を融合したハイブリッド住宅
自然の摂理を利用して、宅内の空気を効率的に循環・排熱
赤土・月桃・チニブなど、沖縄の素材・意匠を随所に盛り込む
アトリエガイイ:佐久川一さん(右)・佐久川達美さん
その土地の自然や風土と共存・共生し、「風や光を取り込みながら、いかに快適な住空間を創造するか」を考えてきた私たちにとって、高気密・高断熱を前提にした「パッシブハウス」は縁遠かった存在。依頼を受けるにあたり、パッシブハウス・ジャパンの方々とも相談してお互いの立ち位置を確認し、「従来のスタイルで設計を進めつつ、所定の基準をクリアするためにコンサルに入ってもらう」という役割分担に落ち着きました。
計画地があるのは、切り立った山と水辺の間のわずかな平地に家々がひしめく、典型的なやんばるの集落です。川の氾濫時に備え、当初は1階をピロティにした高床形式を想定していましたが、基準を満たせないとの指摘があり、地盤面からコンクリートでかさ上げする方法に変更。それでも玄関と生活スペースを2階に置くという着想はそのままに、身の回りのことをする時や就寝時は1階まで階段を下りて潜り込んでいくような、高床プラス竪穴的な空間構成になりました。これには室内の熱環境をコントロールする狙いもあり、花壇や建物の周囲に盛り土をし、1階を半地下状態にすることで、従来は必要とされてきた1階の一部の断熱材を省くことが可能となり、他では類を見ない沖縄仕様のプランができあがりました。
家の外皮構造はパッシブハウスの仕様に合わせる一方で、立面的には換気・排熱に有効な「たばこの乾燥小屋」の構造に倣いました。具体的には、各階の床に木格子や換気口を設け、家中の空気がスムーズに循環するベースをつくるとともに、母屋の上にひょいと載せた越屋根部分の窓を開閉することで、上昇気流を自在にコントロールできる仕組みを整えました。
また西日の影響を軽減するために、緑豊かな川を望む2階西側には、庇を長く延ばしたテラス空間を設置。庇を支える柱と柱の間は筋交いを重ね並べたような斜め格子で覆い、目隠し兼日よけの役割に加えて強度面にも配慮しました。
テラス空間を彩るこの格子柄は、かつて沖縄の集落でよく見られたチニブ(竹垣)をモチーフにしたものです。また内装には、サンゴ・赤土を原料にした漆喰や、月桃入りのふすま紙など、ローカルな材料を多用しており、私たちが取り組んできた沖縄建築のスタイルと、最先端の環境技術がうまく融合した特別な住まいになったのではないかと考えています。
設計・施工会社
一級建築士事務所 アトリエガィィ
TEL:098-897-1379 | https://www.atelier-gaii.com/