安らぎといろいろな「好き」を内包した町中に建つ木の平屋
- DATA
- 設 計: 株式会社 琉球住樂
一級建築士事務所
(担当/伊良皆盛栄) - 敷地面積: 331.18㎡(約100.18坪)
- 建築面積: 182.27㎡(約55.13坪)
- 延床面積: 163.29㎡(約49.39坪)
- 用途地域: 第一種中高層住居専用地域
- 構 造: 木造軸組工法 平屋
- 完成時期: 2022年3月
- 施 工: 株式会社 琉球住樂
- 電 気: 有限会社 山城商工
(担当/照屋盛文) - 水 道: 有限会社 海西工業
(担当/西平重則) - キッチン: 琉球住樂オリジナル
(担当/嶺井典子)
※一部クリナップ - 内部大工: 真内装(棟梁/伊佐真司)
- 外部大工: 金城工業(棟梁/金城清正)
- 内部建具: 有限会社 照屋木工所
- 外部建具: 株式会社 エクセルシャノン
- 外 構: 金勢造園
- 屋 根: 八幡瓦工場
- 左 官: 有限会社 仲松左官工業
- 県産漆喰: 与那原漆喰(担当/赤嶺竜)
路地が入り組んだ住宅街にありながら、庭や屋外との緩やかなつながりが感じられる町中のオアシス。
丁寧に設計された木と自然素材の家には、夫婦2人の自由な感性を包み込んでくれる懐の深さがあります。
週刊かふう2023年12月8日号に掲載された内容です。
時空を超えた木使いのセンスに魅了される
いい家はいい。場所や空間から得られる「心地いい」という感覚は、個々の住み手の感性や志向を超越した普遍的なものかもしれません。
夫婦2人が暮らすTさん宅は、無垢の木と自然素材で編まれた木造の平屋住宅です。大黒柱を中心にして幾重にも重なる太鼓梁の下、ご主人はリビングのソファでどっぷりとくつろぎ、奥さまはすぐ横のダイニングで一服しながらぼんやりと庭を眺める。やがて愛猫から哀願の声がかかると、奥さまは専用ルームの扉を開けて一緒に戯れ、ご主人は屋根裏で趣味の音楽に浸る。2人並んでいても別々に過ごしていても、お互いの自由な生活リズムが木や空間を介して共鳴し合い、快適で穏やかな時間が増幅していくようです。
新居が完成したのは昨年3月。海沿いの絶景のマンションから、周囲に建物がひしめく住宅街へ、生活環境がまるで一変しました。「愛猫がのびのび過ごせる場所がほしかった」ことが住み替えの契機でしたが、いざ検討を進めるうちに、依頼した建築会社を強く推し始めたのは台湾生まれのご主人でした。
「過去のどの作品を見ても、ものすごくセンスがいい。古民家の雰囲気をたたえつつ、現代のライフスタイルにフィットしている点がとても気に入りました」。
プランについての要望は、以前のマンションと比べて手狭さを感じないように、LDKはできるだけ広く。また「シンプルですっきりとした住まいが好み」という奥さまの意向に沿って、視線の抜け感や居室間のつながりを重視した構成になりました。和室は隣り合うダイニングと一体感があり、南面の窓越しには庭や敷地外の様子まで展望。小屋組が美しい頭上のスペースは、天井まで吹き抜けになっています。
自然素材ベースの空間に石やタイルをちりばめる
デザイン選びでもお二人は自由な感性を存分に発揮。無垢材と漆喰の塗り壁をベースにした空間に、それぞれの「好き」をちりばめました。
例えばリビングのテレビ背面にしつらえた琉球石灰岩の壁や、あちこちに置かれたアンティーク調の家具・小物は、「自然の石や木、骨董(こっとう)が好き」というご主人のリクエスト。周囲の雰囲気にもよくなじみ、しっかりと存在感をアピールしています。一方でキッチンや洗面など水回りを彩るタイルは、奥さまのセレクトです。
また「すっきり感」への志向は収納計画にも反映され、LDK回りの収納には目隠しの木製引き戸を造作。整理整頓が簡単なのはもちろん、それ自体がインテリアとして各場所の意匠性を高めています。
住まいの機能性も抜群です。家事・生活動線はキッチンの奥に用意されており、主寝室・バスルーム・ウオークスルークローゼット・洗面室が連続。キッチン・ダイニングを起点に2方向からぐるりと回遊でき、毎日の身の回りのことがストレスなく行えます。さらには省エネ性の高さは驚きの連続で、真夏の冷房負荷が大きく軽減されるなど、年間を通して快適な温湿度環境が保たれています。
「家づくりの仕上げは庭づくり。敷地を覆う木製フェンスと合わせて建築士さんに整えてもらいました」とご夫妻。LDKや和室では常に庭の存在が視界に入り、自然と開放的な気分が助長され、「ダイニングに座ると、趣のある赤瓦がちょうどフェンス越しに見える。庭の植栽の成長も楽しみですね」。
いずれ境界沿いに植えた屋敷林が生い茂れば、外観の映え度は一段と増し、お二人の日常をより豊かにするとともに潤いある町並みを形づくっていくことでしょう。
写真ギャラリー
庭を介して外部環境との間合いをはかり、内部空間に豊かな広がりを生む
LDKの中心に大黒柱と太鼓梁を配置して、木組みの美しい構造を見せる。
飫肥杉の無垢材、漆喰など標準の材料と培った断熱技術で、健康的な住環境を当たり前に。
一級建築士:伊良皆盛栄さん
庭を利用して内と外の緩やかなつながりを保ち、LDKの吹き抜け部分を中心に木組みの美しさを表現した、夫婦2人のための住宅です。
計画地はどこに目を向けても家々がひしめく住宅街にあり、南側正面には集合住宅が間近に迫るなど、プライバシーへの配慮は必須でした。また以前までお二人が住んでいたのは、眺望抜群の海沿いのマンションです。同様の開放感を求めても、単に同じサイズの箱を用意するだけでは限界があることは明らかでした。
打開策として、LDK回りの生活スペースは適切なボリュームに抑えつつ、庭を含めた外部空間が日常の一部と感じられるように、室内外の構成を考えました。具体的には、敷地南側に採光装置である庭を置き、庭に面したリビング・ダイニング・和室に大きく横並びの窓を設け、視線・意識の流れを内から外へ誘導。それぞれの窓の外には深く庇を延ばしていわゆる雨端をつくり、外部空間にグラデーションをつけて奥行き感を高めました。
敷地境界沿いのフェンスも完全には閉じずに、庭を介して風や気配が通るように高さ・形状を調整し、あとは目隠しとなる植栽の成長を待つ計画としました。
またお二人は、お互いの「好き」を尊重し合う自律した大人のご夫婦です。初対面時にヒアリングをすると、ご主人は新居で音楽鑑賞を楽しみたいと答え、愛猫家の奥さまは猫の専用ルームを熱望されました。意匠の好みも、片や自然の石の素材感、片やすっきり感重視と異なっています。設計者としては、そんな別々の思いに応えると同時に、せっかくですから当社自慢の良質の素材・技術力を堪能してほしいと考え、ふと視線を上げたときに架構の美しさを感じられるように、柱と梁をLDKの中心に重点的に配置しました。
焼杉板の外壁、飫肥杉の無垢材、断熱性・気密性に優れた樹脂サッシ、内装仕上げ材の漆喰など、Tさん宅のベースとして使われているのはすべて琉球住樂の標準材料です。家全体の断熱性についても、独自に沖縄の気候風土に適した基準値を求めて試行錯誤を繰り返し、今では住宅の規模や形態ごとに最適なメニューを算出できるようになりました。今回も真夏のLDKの冷房を家庭用エアコン1台で賄えるような、健康的で快適な省エネ環境を提供しています。
設計・施工会社
株式会社琉球住樂 一級建築士事務所
TEL:098-852-6936 | http://10raku.co.jp