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琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 旧盆のサトウキビ

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 旧盆のサトウキビ

週刊かふう2022年8月12日号に掲載された内容です。

旧盆のサトウキビ

Q:旧盆のサトウキビをやっと手に入れました。ご先祖さまのあの世の杖だとか。それならお仏壇のお供えには、曲がっているサトウキビより本物の杖の方が丈夫で使いやすくないですか?(名護市・Oさん・40代)

A:Oさんのご意見、一理ありますよね。『転ばぬ先の杖』という格言もありますが、旧盆にグソーとイチミを往復されるウヤファーフジの安全のことを考えましたら、たしかに、曲がっているサトウキビより、本物の杖の方が丈夫で使いやすいように思えます(まっすぐなサトウキビもありはしますが)。どうして旧盆のお仏壇にはサトウキビをお供えするのか、一緒に考えていきましょう。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 旧盆のサトウキビ

《サトウキビの名称》

 沖縄では、旧盆のサトウキビのことをグーサンウージという地域・家庭があります。それ以外には、グソーウーギ・チングーサンなど。グーサンとは杖、ウージとはサトウキビのことをいいます。ウーギはウージの言い変わったもの、チンに至っては、サトウキビの名称的語源である砂糖黍の黍(キビ)が黄色の実をしていることから、黍(キビ)→黄実(キミ)→チミ→チンになったという説があるとのことです(ウチナーグチって、語源に忠実な単語が多いですよね)。

 総じて、このような単語から旧盆のサトウキビは杖と考えて差しつかえないと思います。ではなぜ、沖縄の旧盆には、丈夫で使いやすい本物の杖ではなく、グーサンウージのサトウキビをお供えするのでしょうか?


《イチミ・グソーの対極説》

 一説には、沖縄の年中行事では、グソーというウヤファーフジ(ご先祖様)の世界と、イチミという私たちの世界を、ウサギムンというお供え物をもって対極的に扱うことで、別世界として区別するしきたりがあるといいます。

 一例を申し上げますと、沖縄の多くの地域・家庭では、グソーヌジン(ご先祖様のお金)というウチカビ(カビジン)を重箱などにお供えするとき、イチミの私たちが使用する紙幣が横向きに印刷されている関係から、グソーのウヤファーフジには、イチミと区別するため、ウチカビを横向きとは対極である縦向きにお供えするしきたりがあるといいます。

 また、沖縄全島を含む、東アジア圏には、旧盆・年末年始などの年中行事のとき、魔よけの棒・槍・杖の意味で、玄関・正門などに青竹やススキをお供えする慣習があります。このとき、お仏壇などのグソーの世界では青竹を使用せず、代用として青竹によく似たサトウキビを使用するという文献を目にしたこともあります。

 これらを応用すれば、本物の青竹はイチミの私たちの杖と同様であると考えられていますので、グソーのウヤファーフジには、青竹=杖によく似た植物であるサトウキビをお供えすることになったのでしょう。


《サトウキビの使い方》

 別説には、旧盆のウンケーとウークイによって、ウヤファーフジはサトウキビを使い分けられているとの考え方があるようです。

 ウンケーのとき、ウヤファーフジは、グーサンウージの語源のようにサトウキビを杖代わりにしてわが家のトートーメーへお見えになるとのことですが、ウークイに至ってグソーにお帰りになる際は、サトウキビを杖ではなく、ウサンデーの品々をお土産としてお持ち帰るため、ウークイカーサ(クワズイモの葉)をウチュクイ(風呂敷)にして包み、それをサトウキビの両端にぶら下げ、運搬道具として天秤棒の代わりに使用するということです。

 そうなりますと、ウンケーのときは本物の杖をお仏壇にお供えしても、グーサンウージは杖ですので意味は通りますが、ウークイのときは、サトウキビの意味が杖から天秤棒に代わりますので、本物の杖のお供えでは意味が通らなくなるという考え方なのでしょう。

 また、旧盆のサトウキビを7本などに短く小さく割ると、ウチナーグチではチトゥ・チンカチ(サトウキビ割り)などと名称が変わります。このチトゥとは、苞(つと)という藁で包んだ手土産だとの説があり、ここでも杖だけに限らず、サトウキビの意味合いの広さを知ることができます。

 Oさんの旧盆のサトウキビの着眼点は素晴らしく、本物の杖でも、天秤棒に使えなくはないと思うのですが……。
 ここは、本物の杖もさることながら、沖縄のしきたりを重んじるということで、旧盆のお仏壇には、青竹にもなり、杖にもなり、苞にもなり、天秤棒にもなる、万能型のサトウキビをお仏壇にお供えしていただければと思います。


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