琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A チャッチウシクミ
週刊かふう2023年9月8日号に掲載された内容です。
チャッチウシクミ
Q:私は戸籍上、長男です。でもトートーメーには『長男幼少小』と書かれた本当の長男がいます。友人から「長男が2人いたら家が滅ぶ」といわれ、『長男幼少小』を消すように占いされました。両親は消すことに大反対です。困ったことに『長男幼少小』は、表に『松根』という屋号が書かれ、この屋号は私も一緒です。友人は「長男も屋号も一緒だから早くグソーに連れていかれる」ともいいます。大反対する両親を説得する方法はありますか?(浦添市・Kさん・50代)
A:沖縄のしきたりには、『トートーメーの禁忌(仮説)』という何点かの禁じられているルールがあり、今回のご相談は、そのうちの『チャッチウシクミ(嫡子押し込み)』に関連する内容かと思われますので、ご一緒に考えていきたいと思います。
イラスト/帰依剛龍
《チャッチウシクミとは》
チャッチウシクミとは、嫡子(長男)を押し込める(蔑〈ないがし〉ろにする)という意味があります。押し込めるということは、どのようなときに該当するのでしょうか?
沖縄には、仏教・儒教・道教などの影響から、『親の恩』を説く『父母恩重(ぶもおんじゅう)』思想があるといわれています。それには、『親の恩』を受けた子は、子の象徴である長男を中心に親へ孝養を尽くすことが記されています。現代にあって、長男を中心とすることに賛否あることは承知の上で、沖縄では現状として、長男の立ち位置をこのように考える傾向があるといわれています。
親への恩返しの中心たる長男ですが、さまざまな状況により、そのことがかなわなくなることがあります。その一つに、親より先に長男が亡くなるという「親のご供養を行いたくても行えない」状況があります。
その先立った長男に対し、沖縄の一部の地域・家庭では、親への恩返しができない親不孝者との考え方から、トートーメーへ名前を記載しない、お墓へご遺骨を納骨しないなどの判断をされることがあるといわれています。これがチャッチウシクミです。あえて好んで、このような判断をされることはないはずですが、『父母恩重』の表層的解釈を根拠にされているのかもしれません。
一方、Kさん家のように、『父母恩重』の深層的解釈を根拠にされ、トートーメーへ名前を記載してあげ、お墓へ納骨してあげるなどの判断をされることもあるようです。ご両親は、ご長男に対する「いのちの慈しみ」の表れとして、チャッチウシクミになることがないよう、ご英断されたのかもしれません。
《屋号と童名》
今回のご質問の内容に戻ります。Kさんのご友人の沖縄のしきたり、チャッチウシクミ、占いの習熟レベルは存じ上げませんが、例えば、『松根』の文字の解釈は、今後の学問的研鑽を待たせていただきたいところです。
『松根』が屋号であれば、混同を防ぐため冠をつけ『東松根(アガリマーチニー』『西松根(イリマーチニー)』などと記載されることが考えられます。
複数の男性に同じ『松根』を使用するとき、屋号ではなく、童名(ワラビナー)である可能性が非常に高いといえます。ご存じのように、童名は、沖縄の伝統的名称であり、ヤーシジ・チーシジといわれる家系に言い伝えられる、共通する幼名のことをいいます。ご友人のいわれる「一緒だからグソーに連れていかれる」のではなく、童名が共通するご先祖さまのご長寿にあやかり、「一緒だから長生きしてグソーに連れていかれない」真反対を意味するといわれています。
また、『長男幼少小』の文字には、『長男は幼くして亡くなられた』との意味があります。もしも次に男の子が生まれたとき、その男の子が長男たる立場になる可能性があることを鑑み、実質の長男の続柄を尊重しつつ、『長男幼少小』さまのチャッチウシクミにも配慮し、長男と『長男幼少小』を分けることにより問題解決を図られていたのかもしれません。
いずれもしても当時、ご両親は沖縄のしきたりに詳しい方々に、きちんとムンナレー(物習い)されてのことなのでしょう。沖縄のしきたりをご存じの皆さまには、「長男も一緒だから早くグソーに連れていかれる」ことがないようにとのお気遣いがあることは、一目瞭然かと思います。
Kさんには、「大反対する両親を説得する方法はありますか?」とのご質問ですが、私からして、ご両親の先立たれたご長男さまを思いやる親の愛情やジンブン(知恵)に深く感銘を受け、ご友人の占いに対し、大反対するご両親を説得する方法はお伝えさせていただかないことが賢明かと考えるところです。Kさんのご期待に添いかねますが、今回はご両親のご判断に賛同させていただくことをご回答に替えさせていただきたいと思います。