琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 井泉のお参りと献体の納骨
週刊かふう2025年3月21日号に掲載された内容です。
立ち入り禁止になったウブガー(産湯井泉)
Q:今までは、ムートゥヤー(本家)のおばあちゃんのご厚意で、敷地にある地域のウブガーへ自由にお参りができていました。ところが、このおばあちゃんが亡くなり、跡継ぎの長男嫁は、「無断立入禁止!」の張り紙をして、誰一人お参りさせないよう防犯カメラまで設置するようになりました。このウブガーは、私たちを見守ってくれるかけがえのない心の支えなので、今後はどのようにお参りすればいいのでしょうか?(宜野湾市・Sさん・50代)
A:沖縄のしまくとぅばのウブガーは、諸説の中、産湯井泉という直訳があります。
つまり、赤ちゃんが産まれたときの産湯に使う井戸ということになります。産湯は、いのちの源であり、赤ちゃんにとって、これからの人生が幸多く、心温かな人との出会いに恵まれますようにとの家族・親族の願いの象徴であると言い伝えられています。
沖縄のしきたりでは、カー(井泉)と同様に、その地下にある水脈を大切にすることが知られています。各地にあるカーは水脈によってつながっているため、カーを埋めるときは、「コンクリートなどを流し込まないで、泡石(琉球石灰岩)・グリ石を入れなさい」という、水脈が流れ続けていくための配慮が工法に反映されているといわれています。
今回のご相談では、このカーの水脈を応用し、立ち入り禁止になったウブガーの水脈の上座(川上)にあるカー、または、下座(川下)にあるカーを代理ウグヮン(御願)として、代わりにお敬いさせていただくのはいかがでしょうか?
この考え方は、水源豊富なスイ(首里)のカーまでウグヮンマーイ(御願廻り)できないとき、地下水の水脈はスイとつながっているであろうという考え方を根拠に、ご自分が住んでいる地域のカーにティーウサー・ウヌフェー(合掌・礼拝)する前例に由来します。
このとき、その立ち入りできるカーを管理されている方々がわかるのであれば、事情を説明し、実際のウグヮンでは、ミーウブガーヌカンガナシーメー(御産湯井泉神加那志前)というウブガーに対し、ここにいたった状況もウトゥーシ(ご報告)される方法があるとのことです。
Sさん、立ち入り禁止になっても、沖縄のしきたりには、近隣のカーに代役していただく代理ウグヮンというありがたい方法がありますので、どうぞご安心なさってください。
献体した遺骨は門中墓に入れない?
Q:祖父は、医学の発展のために献体しました。もうすぐ遺骨を受け取ります。門中墓へ納めたいのですが、「親からもらった体を粗末にあつかった!」という理由で断られました。祖母は、「もう門中墓から出よう」と泣いています。私たちはどうすればよいのでしょうか?(糸満市・Uさん・40代)
献体により医学の発展に貢献した、おじいさまのご生前のご判断には、深く頭の下がる思いです。一方、ムンチューバカという門中墓によっては、献体について納骨できない判断をする方々がいることも沖縄の現状です。
私は、おばあさまがおっしゃる通り、こちらの門中墓から出て(納骨せず)、チネーバカという家族墓へおじいさまを納骨されることがよいように思います。おじいさまが次男以降の続柄であれば、おじいさまのみを新しいお墓へ納骨されることは可能でしょう。
問題は、長男(祭祀継承者)であるとき、門中墓のウヤファーフジのことも考慮する必要があります。今まで門中墓に納骨されているウヤファーフジのご出骨の手続きは、門中によって異なりますが、代表・役員さまへ連絡をし、ご出骨したい希望を伝えることが大切です。すぐにご出骨できることもあれば、次の方の葬式・納骨まで待たなければいけないこともあります。ユンヂチ・タナバタしかできないことがあるかもしれません。
このとき、門中墓が合葬(合祀)という、ウヤファーフジのご遺骨を一緒に混ぜて納骨する様式の場合、ご自分のウヤファーフジを個別にご出骨することは難しくなります。門中墓の敷地にある石ころを拾い、ご自分のウヤファーフジのご遺骨と見立てるマブイグミ(魂汲み)を行ってもよいかなども、代表・役員さまへ確認することをお勧めいたします。
また、このケースでは、ご自分のウヤファーフジのご遺骨は門中墓に残りますので、門中墓を護持する費用としてのウサカティ(供物費・管理費など)は、門中への感謝の心持ちから、今までと同様、お支払いすることがあるかもしれません。
一般的に、門中の代表・役員さまは、ウヤファーフジをとても大切にされる方々から構成されていることが多いように見受けますので、『ご先祖あっての今日(こんにち)』と畏敬の念を持ちつつ、ご対応していただければと思います。