新着 不動産相続Q&A File.18 ライフラインの設備の設置・使用権
週刊かふう2023年8月25日号に掲載された内容です。
ライフラインの設備の設置・使用権
令和3年4月に法改正等された所有者不明土地解消に向けた見直しの中で、不動産相続に関する身近な情報を中心に提供します。今回は「ライフラインの設備の設置・使用権」について、区長と青年会会長のおしゃべりで解説します。
【青年会会長(以下、青年会)】今度、「区長を囲む会」を開催しようと思っているんですが……
【区長】 それは「囲まれる会」ではないのかね? なにかたくらんではいないかい?
【会長】 カンが鋭い人は苦手です(笑)
【区長】 さてさて、自分の土地が他人の土地によって囲まれているとしたら、道路(公道)から自分の土地へ行くにはどうしたらいいと思う。他人の土地を勝手に通るのはいけないよね?
【青年会】 袋地ですね。走り幅跳びが得意な人なら、ジャンプするのはどうですか? あとは地中を掘って通り抜けるとか?
【区長】 笑。真面目に答えると、民法第二〇七条で「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と規定されている。土地の上空や地下も所有権の範囲になるんだよ。
【青年会】 それは困りましたね……
【区長】 そこで、民法第二一〇条は「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」としている。その際の償金(いわゆる通行料)や通行方法(必要かつ損害が最も少ない方法)についても規定がある。
【青年会】 それなら大丈夫ですね⁉
【区長】 でも、人が通行できるというだけでは足りないよ。人間以外でも通る必要なものがある。
【青年会】 あ、電気・水道・ガス……
【区長】 そう。いわゆるライフラインといわれる設備の設置や使用ができないことには、生活も土地の活用もできないだろう。
【青年会】 それでは、そのことについての民法の規定もあるんですね。
【区長】 実は、これまでの民法には規定が無かったんだ。もともと民法が制定されたのは、ライフラインが未発達な時代のことだったしね。
【青年会】 すると、水道やガスを引くのにも、導管が通る土地の所有者全員からの承諾が必要なのでしょうか。
【区長】 それだと、困難で非合理なケースも出てくる。所有者が不明なこともあるだろうしね。これまでは、法律の解釈によって、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができるとされてきた。でも、明文の規定がないから、不当な承諾料を求められる事例もあったんだ。
【青年会】 今回の民法改正では、明文化されたということなんですね。
【区長】 条文では「電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付」という表現になっていて、他人の土地や設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないときは、必要な範囲内で他人の土地や設備を使用できるとされた。
【青年会】 でも、ある日突然、工事を始められては困りますね。
【区長】 その際は、あらかじめ通知をしなければならないし、生じた損害についての償金も定められているよ。
【青年会】 権利と義務は一体なんですね。
【区長】 あと、袋地ではなくても他人の土地を使用しなくてはいけないケースもあるから、必ずしも囲んでいる土地や隣地とは限らない。ところで、民法第二一〇条の「その土地を囲んでいる他の土地」という文言だけど、昔は「囲繞地(いにょうち)」と言ったんだよ。
【青年会】 『繞(にょう)』は見たことがない漢字です!
【区長】 平成16年(同17年施行)の民法口語化の際に表現が変更されたんだ。でも、「囲繞地」という言葉は使いやすいから、今でも耳にすることはあるよ。
法務省HP「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」より引用
司法書士 幸良 和也(こうら かずや)
令和2年度司法書士試験合格
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