基礎からわかる相続Q&A SEASON2 File.12 遺産分割協議の前提問題への対応について
週刊かふう2023年12月15日号に掲載された内容です。
Q.一昨年、夫が亡くなりました。夫はアパートを所有しており、そのアパートに私たち夫婦と亡くなった両親も住んでいました。しかし、夫が亡くなり、「このアパートの建築費は亡くなった両親が大部分を支払った。だからアパートは両親のものだ」と夫の妹が主張してきました。話がまとまらずに、遺産分割調停を申し立てたのですが、調停委員さんに、「調停なさず」となる見通しと伝えられました。この「調停なさず」とはなんでしょうか?
一昨年、夫が亡くなりました。私たち夫婦の間には子どもはおりません。夫の両親は既に亡くなっており、夫は妹と弟がいる3人兄弟です。
夫は遺言書を作成していませんでした。夫はアパートを所有していて、私たち夫婦や亡くなった夫の両親らもそのアパートの一室に居住していたのですが、夫の妹はアパートの建築費の大部分は両親が出したもので、アパートは夫のものではなく両親の財産だと主張しています。
夫の妹との話がまとまる気がしませんでしたので、私は遺産分割調停を申し立てました。ところが、前回の調停で調停委員さんに、遺産の範囲に争いがあるようだからと取り下げを促され、取り下げない場合は「調停なさず」となる見通しと伝えられました。
この「調停なさず」とはなんでしょうか。調停が成立しないことはやむを得ないと思うのですが、家庭裁判所の審判ももらえないのでしょうか。
今後どのように対応すればよいでしょうか。
A.遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。ところが、相続人の範囲や遺産の範囲など、遺産分割調停の前提となる事柄について争いがある場合もあります。
このような場合の家庭裁判所での調停手続きの流れや、どのような手続きが想定されるかどうかについて、見ていきましょう。
遺産分割調停の主な終了事由は、調停成立および調停不成立、取り下げですが、他にもさまざまな終了の仕方があります。
「調停なさず」とは、調停委員会が、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認める場合等に、調停をしないものとして調停を終了させることです(家事事件手続法271条)。
一般的に調停不成立となれば、審判に移行することができ裁判所の判断を仰ぐことができます。調停が成立しなかったという点では、調停不成立と「調停なさず」は同じですが、「調停なさず」については審判移行はされませんし、不服申し立てをすることもできません。
本件では、夫の妹さんがアパートは相談者の夫のものではなく、両親のものだという主張をされており、夫の妹さんと相談者の方との間で、夫の遺産の範囲について意見が違っています。
ある財産が遺産に含まれるかどうかについては、家庭裁判所で判断されるものではなく、地方裁判所で遺産確認の訴えにより判断すべきものとされています。
そのため、アパートが遺産に含まれるかどうかについて家庭裁判所で判断ができないので、家庭裁判所の調停委員会としては、この点について確定するまで調停ができないとして「調停なさず」を検討されている状況です。
相談者のケースでは、アパートが遺産に含まれるかどうかについての争いに決着がついてからでないと調停を進めることができないので、調停を取り下げて、遺産確認の訴えの準備をするしかないと思われます。調停を取り下げないとしても、「調停なさず」で終了することが見込まれるので、同じく遺産確認の訴えの準備をすることが必要と思われます。
遺産確認の訴えは、全ての相続人との間で合一に確定することが要請されますので、夫の妹さんだけではなく、夫の弟さんも被告(相手方)とする必要があります。
この相談で今年の最後となりました。今年も基礎からわかる相続Q&Aにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆さま、良いお年をお迎えください。
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