基礎からわかる相続Q&A SEASON4 File1 自筆証書遺言書保管制度と指定者通知について
週刊かふう2025年1月24日号に掲載された内容です。
Q.
夫が亡くなり、子どもがいないため、夫の兄弟姉妹と相続協議を行い、昨年住宅を相続しました。私の兄弟とは疎遠で、死後は夫の甥に財産を継いでほしいと考えています。甥が転勤で内地に行くため、私の死後に兄弟が住宅を売却しないか心配です。甥に私の死を伝え、必要な手続きを行うための準備を教えてください。
私の夫は、土地を購入してその上に住宅を建築し、私たち夫婦はそれ以来この家で暮らしてきました。私の夫は7年ほど前に亡くなったのですが、私たち夫婦には子どもがおらず、私は夫の兄弟姉妹と夫の相続について長年協議を行うことになってしまいました。幸い、夫は住宅以外にも財産を残してくれていたので、住宅は私が相続することで昨年協議がまとまりました。
私は、私の兄弟とは疎遠なため、私の死後は私の兄弟ではなく、今まで何かと私のサポートをしてくれた夫の甥っ子に家を含む私の財産を継いでほしいと思っています。どのような準備をすればよいでしょうか。また、甥っ子が今年転勤になり内地に行くことになりました。私が亡くなったことを甥っ子が知るのが遅れてしまって必要な手続きをする前に私の兄弟が住宅を売却してしまわないか心配です。私が亡くなったことを甥っ子に伝えてもらうことはできるでしょうか。
A.
皆さま、明けましておめでとうございます。不動産を含む相続に関して日ごろの法律相談でよく聞かれることを中心に、事例に沿って知っておきたい法令や制度を解説していきたいと思います。少しでも皆さまの疑問解決や方針への参考になれば幸いです。今回は、自筆証書遺言書保管制度を見ていきます。
仮に、現在相談者が亡くなったとすると、相談者の法定相続人は相談者の兄弟となります(ご両親が既にお亡くなりになっているものとして)。
相談者が兄弟ではなく夫の甥御さんに相続してほしいのであれば、遺言書を作成することが考えられます。甥御さんに財産を遺贈する内容の遺言書を作成しておくことで、甥御さんに財産を相続してもらうことができます。ただ、遺言の形式・方式は法的に厳格な定めがあるので注意が必要です。実務では、自分で遺言を書く自筆証書遺言と、公証人役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言がよく使われます。
公正証書遺言は、遺言書が公証人の面前で遺言の内容を口授しそれに基づいて公証人が文章にまとめるもので、実務上は、事前に必要書類を準備して公証人役場と打ち合わせが必要になります。
自筆証書遺言は、遺言者がその全文と日付および氏名を全て自分で書き、これに押印をしなければなりません。添付する財産目録だけはパソコンで作ってプリントアウトすることもできますが、それ以外は全文自書が必要です。この自筆証書遺言を作成した場合には、2020年から始まった法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用することが考えられます。
自筆証書遺言書保管制度を利用することで、紛失などを避けることができる他、自筆証書遺言書保管制度を利用した方が亡くなった場合に、法務局から指定した人への通知をしてもらうこと(指定者通知と呼ばれます)ができるというメリットがあります。指定者通知は、法務局が戸籍担当部局と連携して戸籍上遺言者の死亡を法務局職員が確認した場合に、遺言者があらかじめ指定した人に対し遺言書が保管されていることをお知らせするものです。
この指定者通知の制度を利用することで、相談者が亡くなった後に、法務局から甥御さんに通知をしてもらい、通知を見た甥御さんが必要な手続きを取ることが可能になると思われます。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、上記の自筆証書遺言書の形式を守る必要がある他、遺言書の用紙のサイズや記載方法等が決まっており、さらに遺言書の保管申請書を作成して事前予約も必要となりますので、ご不明点がありましたら弁護士にご相談されることをお勧めします。
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