新着 不動産相続Q&A File.36 「トートーメーと相続」について
週刊かふう2025年1月31日号に掲載された内容です。
「トートーメーと相続」について
不動産相続について司法書士の経験と目線から実践的なアドバイスや解決策を提供します。今回は、沖縄ならではの慣習「トートーメーと相続」について、区長と青年会会長のユンタクで解説します。
【青年会会長(以下、青年会)】 区長、旧正月(今年は1月29日)も終わり新年の行事も一通り落ち着きましたね。
【区長】 旧正月でも親戚が集まったと思うが、相続登記の話はあったかな? 私のところは30年前に亡くなった祖父の相続登記が動き出しそうだぞ。もちろん相続登記について1番知識のある私が中心になって進めることになった(エヘン)。
【青年会】 確かに相続登記の義務化が少しずつ浸透してきています。法律ができたので話題を切り出しやすくなり盆正月やシーミー等、親戚が集うケースは話し合うチャンスですね。
【区長】 そうなんだよ!
【青年会】僕のところは親戚からトートーメーを承継する人は「相続でも有利になるのかと?」の質問がありましたが、どうなんですか?
【区長】 新年早々、すごく奥深い質問だね。沖縄は祖先崇拝する方が多く、中でもトートーメー文化は他の地域にはない慣習。トートーメーについてはいろいろな論点があるが、今回は民法の視点から次の4点についてユンタクしてみようと思う。
①トートーメーは相続財産か
②トートーメーの承継ルール
③トートーメーを相続する人は多くの財産を相続できるか
④トートーメーを円滑に承継させるために事前にできること
【青年会】区長の珍しく真面目な話ぶりからすごくデリケートな問題だと認識しています。それでは、解説をお願いします。
【区長】 まず、①だが、結論から言うと相続財産ではない。民法では系譜、祭具および墳墓の所有権は相続の規定によらず、慣習によって祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると規定されている(民897条)。系譜は家系図など、祭具は位牌や仏壇などがありトートーメーも祭具となる。墳墓は墓石や墓地などがあり、トートーメーや墓地は相続財産ではなく祭祀財産となる。
【青年会】なるほど、先祖から伝わるものであっても相続財産でないということですね。
【区長】 ここから承継者は相続人に限定されないというのが②になるのかな。法律(民法)上は、(ア)被相続人の指定があればそれに従い、(イ)被相続人の指定がなく慣習があれば慣習に従う、(ウ)慣習もなければ家庭裁判所が決めることになっておる。とは言え、長男が承継者となり、次男三男以下に継がせてはならないというのが一般的な慣習だから注意が必要。トートーメーの承継には4大ダブーがあるそうだから興味のある読者はネット等で調べてみるとよい。
【青年会】最近は核家族化や少子化の影響で家族の形も変わってきて、トートーメー承継の考え方も変わりつつあるようですよ。
【区長 】そうは言っても、長男が健在であればトートーメーを承継するケースが多い。そこで③という話になるが、これも「NO」だな。沖縄県は戦後米軍統治下で本土より新民法の施行が10年遅れ、長男がすべて相続する旧民法の家督相続制度が長く続いたため、トートーメーを承継する長男が財産全部をセットで引き継ぐというイメージがあるのだろう。昭和32年に現在の均分相続が始まり、遺産分割で争いがあると法定相続分が基準となる。
【青年会】 「長男嫁」の言葉もあるように、トートーメー承継者は、盆正月や法事、シーミー等を主宰し、精神的、経済的にも負担があることも事実ですよね。
【区長】 それで④だな。相続人がトートーメー承継者の気持ちに配慮して遺産分割協議で少し譲歩できればよいが、財産が不動産のみの場合は、調整が難しく協議ができないことも少なくない。トートーメーの承継がある相続においては、ぜひとも遺言書を活用してトートーメー承継者に配慮した相続を奨励する。遺言書作成を通じて沖縄のトートーメー文化の目的である家族円満子孫繁栄が続くことを願うよ。