基礎からわかる相続Q&A SEASON5 File4.信託・遺留分について

週刊かふう2026年4月17日号に掲載された内容です。
Q.
妻に先立たれ、障がいのある息子と二人で暮らしています。主な収入は親から相続した賃貸アパートの家賃で、私の高齢や持病から今後の管理や死後の息子の生活が心配です。娘に管理を任せ、信託契約で息子に必要な金銭を渡せる仕組みを作りたいと考えています。この契約の問題点や、不動産名義を移す際の贈与税の有無が気になっています。
私は妻に先立たれ、現在息子と二人暮らしです。息子は障がいを持っており、生活にさまざまなサポートを必要としています。
私の主な財産として親から相続した賃貸アパートがあり、そこからの家賃収入が現在の主な収入です。高額ではありませんが、年金と家賃収入で、なんとか息子と生活することができています。
私には、息子の他に娘がおります。私も高齢となり、持病もありますので、自分で物件の管理が継続できるかとか、私の死後の息子の生活はどうなるかと心配しています。最近、信託契約というものがあることを知り、不動産管理を娘に任せて、娘から息子に生活に必要な金銭を渡してもらい、私の死後も不動産収入を息子に取得させ息子が生活していけるようにすることを考えています。
このような契約をすることについて、何か問題はありますか。また、不動産の名義を移転する際に贈与税がかかったりするのでしょうか。
A.
家族信託は親族間で締結される信託契約です。信託契約の対象は銀行等が受託者となる場合は金銭等に限られますが、家族信託では不動産を信託契約の対象とすることもできます。信託契約を利用することで、財産管理を任せたり、自分の死後の受益権について指定することができます。他方で、信託契約の内容によっては、紛争の原因となってしまうかもしれませんので注意が必要です。
相談者のように、財産の管理を子どもに任せたいという方にとっては、信託契約は有力な選択肢です。
信託契約とは、委託者が所有する財産を受託者に移転し、信託目的に従って受託者にその財産の管理または処分をさせる契約のことです。本件では、相談者が委託者、娘さんが受託者とした信託契約を締結した場合、娘さんが信託目的に従って信託の目的とした賃貸アパートの管理等を行うことになります。
そして、相談者のお考えの信託契約が締結できれば、相談者のご存命中は相談者が受益者となり、相談者の死後は息子さんが受益者となって、受託者となる娘さんに対する受益債権(収益を請求する権利)を有することになります。
信託契約を利用することによって、信託した財産は遺産分割協議の対象から外れることになります。
しかし、配偶者や子、親が相続人となる場合には、これらの相続人には遺留分があります。遺留分とは、相続財産から最低限相続させなければならない部分です。法律は、ある程度亡くなる方の意思を尊重する一方で、他の相続人にとってあまりに不公平なことになってはいけないので、兄弟姉妹以外の法定相続人については被相続人の財産の一定割合を遺留分とし、これが侵害された場合に遺留分侵害額請求を認めるというかたちでバランスを取っています。本件の場合、娘さんの遺留分割合は4分の1となります。
そして、遺留分の計算の基礎とする財産は、信託契約がなされたケースではその受益権も含めて計算することになります。つまり、信託契約で受益権を取得した方の遺留分の計算は、信託不動産そのものの価額ではなく受益権の価値によって計算することとされています。もっとも、信託受益権の評価手法については争いがあり、訴訟となった場合には鑑定が必要な場合があります。
信託契約によっても、遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求というかたちで紛争が生じうる状態となってしまうということです。相談者が、自分の死後に子どもたちの遺留分侵害額請求の紛争を望まないのであれば、各相続人が遺留分は自己の相続分として確保できるよう配慮する必要があります。
また、信託契約を締結すると、信託目的不動産の所有権が受託者である娘さんに移転することになりますが、本件のように委託者と受益者が同一(相談者様)となる信託契約に基づく所有権移転は形式的なものとされ、この時点では贈与税は課されません。相談者が亡くなった際には、息子さんが受益権の遺贈を受けたものとして相続税の計算をする必要があります。


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