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よくわかる不動産相続 Q&A File.8

よくわかる不動産相続 Q&A File.8

週刊かふう2017年7月28日号に掲載された内容です。

「相続人不存在」に基づく相続財産管理人の職務

前回は、尾辻克敏弁護士が被相続人の負債が大きい場合の、相続放棄と限定承認について説明しました。今回は、その相続放棄が活かされた場合、被相続人の遺産はどう取扱われ、どのようになるのか私、弁護士島袋秀勝がわかりやすく解説いたします。

よくわかる不動産相続 Q&A File.8

Q.最近、私Bの母Aが90歳で亡くなりました。

 父は、約20年前に、既に他界しています。母Aの遺産は、自宅の土地・建物(時価3000万円)と預金500万円です。しかし、自宅の土地・建物には、銀行の債権4000万円を担保するため、抵当権が設定されています。母Aは、その他8名の債権者に対し計1000万円の負債を抱えていました。母Aの負債の額が大きいものですから、私B・弟Cは、相続放棄の手続きをとりました。
 その後、母Aの遺産は、どのように取り扱われるのでしょうか。
 なお、母Aの両親(私たちB・Cからすれば祖父母)とも既に他界していますが、母Aには、D・E・Fの3名の兄弟が健在です。

A. Aには、死亡時に、配偶者(夫)はおらず、1番目の相続人である子B・Cは相続放棄の手続きを取りました。

 2番目の相続人であるAの父母は既に死亡しています。そこで、3番目の相続人であるAの兄弟D・E・Fが、Aの遺産を相続することになります。D・E・Fは、そのままでは、Aの積極財産(自宅の土地・建物(以下「本件土地・建物」といいます、500万円の預金)のみならず、消極財産(銀行に対する4000万円の債務、その他8名の債権者に対する計1000万円の債務、合計5000万円の債務)をも相続することになります。D・E・Fが、その負債を免れるためには、やはり自己がAの相続人となったこと(B・Cが相続放棄の手続きを取ったこと)を知った日から、3カ月以内に、相続放棄の手続きを取ることが必要となります。子B・Cとすれば、相続放棄の手続きを取る前に、叔父叔母D・E・Fに、そのことを教えてあげてください。
 相続人が存在しないと思われる状態のことを、「相続人不存在」といいます。相続人不存在の場合は、被相続人の遺産は「相続財産」という法人を構成し、家庭裁判所は、関係人の申し立てによって、「相続財産」たる法人を管理する相続財産管理人を選任することになります。本事案のような場合、被相続人Aの子B・Cが、Aの兄弟D・E・Fが相続放棄の手続きを取ったことを確認した後、相続人の不存在に基づく相続財産管理人選任申し立ての手続きを取るのが通常ですが、債権者がその申し立て手続きを取ることもあります。家庭裁判所は、多くの場合、弁護士を相続財産管理人に選任しています。
 相続財産管理人の主な職務は、以下のとおりです。

1:Aの財産(本件土地・建物、500万円の預金)は、相続財産管理人が管理することになります。相続財産管理人は、まず財産目録を作成し、裁判所に提出します。
2:Aの債権者・受遺者に対し、請求申し出をなすよう催告し、確定した債権について、債権額に応じて、弁済の手続きを取ります。預金500万円が弁済の原資になります。
3:子B・C、兄弟D・E・F以外にAの相続人がいないか明らかにするため、相続人捜索の公告申し立ての手続きを取ります。申し立てから6カ月経過しても他に相続人が現れない場合は、相続放棄の手続きを取った子B・C、兄弟D・E・F以外にAの相続人がいないという相続人の不存在が確定することになります。
4:ここで、特に問題となるのが、本件土地・建物の処分です。
  (ⅰ) Aの関係者等が、本件土地・建物を相当価格で譲り受けたいと希望するのが多いこと。
  (ⅱ) 抵当権実行に基づく競売手続きよりも、いわゆる任意売却の方が、時価に近い売買価格を維持しうることが多いこと。
  (ⅲ) その結果、抵当権者たる銀行としても、多額の債権の回収するため、任意売却を要望することが多いこと等から、相続財産管理人は、銀行の抵当権抹消の事前了解を得て、任意売却に取り組むことがあります。
 しかし、不動産の任意売却は、相続財産管理人に与えられた通常の業務・権限の範囲を超える行為ですから、相続財産管理人が不動産を任意売却するためには、裁判所の許可が必要となります。本事案でいうと、裁判所は、本売買の相手方・売買価格・売買の内容等が相当かどうかをチェックし、本件土地・建物の任意売却について、許可・不許可を判断することになります。
5:以上の過程を経ても、本件土地・建物を処分することができなかった場合は(抵当権実行による競売手続きでも落札者が現れず、任意売却を試みるも功を奏しなかった)、本件土地・建物は、最終的に国庫に帰属することになります。それは、社会に存在する財産については、無主状態ではなく、誰かが所有・管理し、それを明示することが適切・相当であり、そのような制度が社会の安定につながるという考え方を基礎とするものと思われます。

 以上、相続人不存在の場合の相続財産管理人の主な職務内容について説明しました。その他、特別縁故者に対する財産分与という難しい問題もありますが、またの機会に説明したいと思います。

よくわかる不動産相続 Q&A File.8

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