よくわかる不動産相続 Q&A File.12
週刊かふう2017年9月29日号に掲載された内容です。
共同相続された預金債権も遺産分割の対象!?
今回は、皆さまの生活にも大きく影響を及ぼすと考えられる最近の判例を、ご紹介したいと思います。
昨年12月19日、最高裁判所大法廷において「共同相続された普通預金債権も遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」とする判断が示されました。この決定は従来の判例を変更するもので、遺産承継業務の処理や、家庭裁判所における遺産分割調停等に重大な影響を及ぼしています。それでは、私、弁護士の島袋秀勝がわかりやすく解説いたします。
Q.最近、私B(長女)の母Aが90歳で亡くなりました。
母Aの遺産は、自宅の土地・建物(時価3000万円)・農地(時価3000万円)と預金1800万円です。父は既に他界し、私B(長女)以外の相続人は、C(長男)・D(次男)となっています。
母Aの遺言で、自宅の土地・建物は長男C、農地は農業を営む次男Dが相続することになっています。私は、婚姻した後、自宅を建てる際に、母Aから1200万円の援助を受けました。これを理由に、長男C・次男Dは、私が預金1800万円を相続するのに反対しています。
私は、預金1800万円を相続することが出来るのでしょうか。
A.長女Bは、亡母Aから生前建築資金として1200万円の贈与を受けていますが、これは特別受益にあたります。
これを踏まえ、長女Bが預金1800万円を取得したとすると、長女B(1200万円+1800万円)・長男C・次男Dの実質的相続分はそれぞれ3000万円になり、亡母Aの遺産を子らが実質的に均分に相続することになり、認められてしかるべきだと思われます。
しかし、従前の最高裁判例は、共同相続された預金債権は、
①預金債権は可分性を有するから、相続分に応じて法律上当然に分割される
②従って、相続人全員の合意が無い限り、遺産分割の対象とならない
と述べていました。
この立場からは、長女B・長男C・次男Dは、それぞれ金融機関に対して預金600万円の払戻を受けることが出来ることになります(1800万円×1/3)。従って、長男C・次男Dの相続分はそれぞれ3600万円(3000万円+600万円)を相続するのに対し、長女Bの実質的相続分は1800万円(1200万円+600万円)に止まり、均分相続を妨げる結果となってしまいます。長女Bが、遺産分割調停を申し立て、預金1800万円が遺産分割の対象となる・実質的な均分相続を実現して欲しい旨主張しても、裁判所は、長男C・次男Dの了解が無い限り、預金1800万円を遺産分割の対象とすることを認めませんでした。
しかし、最近、最高裁は、共同相続された預金債権は、法律上当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる旨判示しました。これによると、長女Bが、遺産分割調停を申し立て、預金1800万円が遺産分割の対象となる・実質的な均分相続を実現して欲しい旨主張したとき、裁判所は、長男C・次男Dの了解が無くとも、預金1800万円を遺産分割の対象として、遺産分割を図ることになります。その他相続に関する種々の事情が考慮されることになりますが、均分相続を実現するため、長女Bが預金1800万円を取得する可能性は十分認められます。最高裁は、預金債権が均分相続を実現する調整的機能を有していることにも着目し、預金債権に関する考え方を変更したものと思われます。
長女Bにおいて、長男C・次男Dの了解が得られない場合、是非遺産分割調停申立を検討してみて下さい。
今回、「不動産相続」に直接に関連する内容ではありませんが、相続に関し是非とも理解していただきたい重要な課題なので、掲載させていただきました。
最後に、「よくわかる不動産相続」での私の執筆も、今回で終了となります。読者の皆様から、多数の貴重なご意見を頂きました。ご拝読いただき、深く感謝申し上げます。ありがとうございました。