よくわかる不動産相続 Q&A File.19
週刊かふう2018年1月19日号に掲載された内容です。
外国に在留の方が入った場合の相続手続、渉外登記について
所属事務所の中村敦先生に代わり、今回からこのコーナーを担当することになりました司法書士の伊藝広介です。難しい相続に係るご質問やご相談にできるだけ丁寧にお答えしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。今回のご質問は海外にお住いの方がいる場合の相続登記に関することです。それでは分かりやすく解説していきましょう。
Q.弟は現在仕事の関係で外国に住んでいます。相続登記に関して、どのように手続きをしたらいいのか教えてください。
私(長男)の父が先月亡くなりました。母は既に他界していますが、私を含め、妹(長女)と弟(次男)の兄弟三人は健在です。父から残された遺産は、自宅の土地建物ですが、建物には仏壇があり、現在私が住んでいます。兄弟間ではこの自宅を私の名義にすることは同意しているのですが、弟は現在仕事の関係で外国に住んでいます。相続登記に関して、どのように手続きをしたらいいのか教えてください。また手続きをするのに期限等はあるのでしょうか。
A.原則、遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡時までの戸籍・除籍・改製原戸籍、相続人全員の戸籍・印鑑証明書等を添えて不動産所在地を管轄する法務局へ登記申請をする必要があります。
沖縄県は日本でも有数の移民県と知られています。ハワイを始め、アメリカ大陸、南米大陸と多くの県民が海外へ移住していきました。現在はグローバル化社会になり、海外で働く機会や国際結婚等によって、海外で暮らす人が増えてきたと思います。外務省の調査によれば、平成28年度の統計で約133万人が在留邦人として届けられているそうです。親族の中でも、海外で暮らす者も珍しくはないのではないでしょうか。質問者の弟さんも仕事の都合で海外に赴任しているようです。
さて、質問にあった相続登記に関する手続ですが、相続により不動産の名義を変更する場合、原則、遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡時までの戸籍・除籍・改製原戸籍、相続人全員の戸籍・印鑑証明書等を添えて不動産所在地を管轄する法務局へ登記申請をする必要があります。遺産分割協議に定められた内容に間違いがないことを担保するため、実印での捺印、印鑑証明書の添付が要求されています。しかし、海外に在留している日本人は印鑑証明書を取得することはできません。なぜなら、国外転出の届出が出されると、転出予定日をもって住民登録は消除され、同時に印鑑登録も抹消されるため、印鑑証明書の交付ができなくなるからです。そこで、次のいずれかの方法により、印鑑証明書に代わる書類を提出する必要があります。
まず、現地の在外公館(大使館、領事館)で発行してもらう「署名証明」です。これは、日本に住民登録をしていない海外に在留する方に対し、一定の要件のもと、印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。具体的には、日本から送られてきた遺産分割協議書を最寄りの在外公館に持ち込み、必要書類、手数料を納め、領事の面前で、遺産分割協議書に署名します。基本的に日本国籍を有する者のみを対象としていますが、元日本人であれば、署名証明を発給できるケースもありますので、事前に当該証明を受けようとする、在外公館に確認するようにしまょう。なお、本人が直接出向く必要がありますので、お近くに在外公館がない場合は、次の方法を検討しましょう。それが、現地の公証人による認証です。署名証明と同じように、公証人の面前で遺産分割協議書に署名し、公証人が当職の面前で証明した旨の認証をし、その公証人が署名したものが、印鑑証明の代わりになります。つまり、公証人の面前で署名しその公証人が認証することにより、その文書の真正を担保することになっています。特にアメリカにおいては、公証人(Notary Public)はより身近な制度で、銀行や法律事務所などにも公証人の資格を有している者がおり、認証手続きを行っています。ただし、日本語で書かれた文書だと認証してもらえない可能性があるので、現地の言語に翻訳したものを持ち込むようにしましょう。また、当該相続人が一時帰国することが可能であれば、日本の公証人役場でも同様に認証してもらい、登記手続きに使用することが認められています。
相続登記には期限はありません。しかし、相続登記を放置していると、相続人だった人がさらに亡くなったことにより相続人の数が増え、協議の成立が困難になる可能性もあります。上記のように相続人の一人が外国にいる場合でも相続人全員の手続きへの関与が必要です。早めに手続きをするようにしましょう。但し、遺言があれば、遺産を取得する者のみの手続きで、名義変更は可能です。推定相続人が外国にいる場合は、遺言を遺しておくことをお勧めいたします。