よくわかる 不動産相続の勘所 Q&A File.4
週刊かふう2018年8月17日号に掲載された内容です。
財産が少ないから安心?
今回は遺産分割についてお話しいたします。遺産分割は、各相続人の同意のうえ行われるものですが、これに法的な期限はありません。しかし、手続きを先延ばししたり放置したりすると、その後余計な費用と時間が掛かったり、相続人が増えて収拾がつかなくなるなど、問題が複雑化し分割が困難になります。そうならないためにも、相続手続きは早めに取り掛かる必要があります。
Q.半年前に父が亡くなりましたが、忙しいため相続の手続きをまだ行っておりません。
私は50代男性で、妹と弟がおります。半年前に父が亡くなりましたが、忙しいため相続の手続きをまだ行っておりません。父の財産は自宅とわずかな預金のみで、落ち着いてから遺産分割の話し合いを行いたいと思っております。兄弟の仲は良く、財産も少額ですから、もめることはないと思っております。遺産分割を放置した場合、何か問題があるのでしょうか。
A.相続争いは資産家だけの問題ではありません。
ご兄弟の仲が良く、もめる心配はないとのことですが、相続争いは資産家だけの問題ではありません。自宅のように分けるのが困難な財産や、少額な財産で争われるケースも多く、決してひとごとではありません。
相続が開始すると、亡くなった方の財産は相続人全員の共有となり、その共有状態を解消する手続きを遺産分割といいます。遺産分割協議に期限はなく、いつでも行うことができます。しかし、分割を先延ばしにしたり放置したままでは、相続税の恩典を受けられず、また預金や不動産の名義変更もできません。更に、名義変更を放置した状態で新たな相続が発生すると、共有状態である財産の権利者が増え、収拾がつかなくなるというような問題も生じます。
解説1 相続争いの現状
遺産分割について、相続人同士で解決できない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。グラフは、平成28年度の家庭裁判所での遺産分割事件のうち認容・調停成立件数の価格別割合を示したものです。遺産価額1,000万円以下で33%、1,000万円超5,000万円以下で42%と、実に全体の約75%が5,000万円以下の遺産でもめていることがわかります。
解説2 遺産分割と相続税の関係
① 遺産分割の期限について
遺産分割について民法では、いつでも協議を行い分割することができるとされており、期限の定めはありません。
② 相続税の申告期限は?
財産が基礎控除額を上回る場合には、亡くなった日から10カ月以内に申告が必要です。また、納付も申告期限と同じ日となっています。
遺産分割や申告の手続きには時間がかかりますので、早めの対応が必要です。
なお、申告をしなかった場合、納付すべき税額の15~20%のペナルティーが課されますのでご留意ください。
③ 分割が確定していない場合でも申告は必要?
分割が確定していない場合であっても、期限は変わらず、未分割の状態で申告をすることになります。この場合、各相続人が法定相続分で財産を取得したものとみなして相続税の計算をします。
④ 未分割申告のデメリット
分割が確定しないと受けられない税務上の恩典があり、代表的なものとして以下のものがあります。ただし、③の未分割での申告から3年以内に分割が確定した場合には、適用を受けることができます。
★配偶者の税額軽減
配偶者が取得した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円までの金額は相続税がかかりません。
★小規模宅地等の評価減
亡くなった方の居住用や事業用に使っていた土地について、一定の要件を満たした場合に土地の評価額を最大80%減額することができます。
解説3 遺産分割を放置した場合の問題
① 不動産の活用の制限
不動産が共有の場合、売却や担保提供等には共有者全員の同意が必要です。つまり、単独使用ができず、活用が制限されることになります。
② 共有者が数十名?
不動産の名義変更(登記)は義務ではなく、期限もありません。しかし、放置された状態が続きますと、孫やひ孫の代には権利者(共有者)が数十名にも及ぶという事態にもなりかねません。
まとめ
遺産分割に期限はありませんが、協議を先延ばしにしたり放置した場合には、さまざまな不利益や問題が生じます。また、長期間放置した土地の処分には、余計な費用と時間が掛かり、手続きを行うお子さんやお孫さんに迷惑をかけることになります。
相続の手続きは時間がかかり、煩わしいものかもしれませんが、お子さんやお孫さんのためにも、先延ばしにせず早めに取り掛かる必要があります。