よくわかる 不動産相続の勘所 Q&A File.20
週刊かふう2019年4月26日号に掲載された内容です。
空き家となった実家の相続および売却
昨今、話題にあがる「空き家問題」ですが、相続においてもさまざまな問題があるようです。原則的に「居住していない住宅」は、居住用財産控除の対象とはなりませんが、一定の要件を満たせば譲渡所得の特例を受けることもできますから、制度の活用を検討する必要があるでしょう。
Q.実家を売却した場合の税金についてご教示願います。
私の父は老人ホームに入所しておりましたが、先月85歳で他界しました。父の相続人は私と弟の2人ですが、兄弟ともに自宅を所有していることから、築50年の実家は空き家になる予定です。今後、実家の売却を予定しておりますが売却による利益は2千8百万円の見込みです。実家を売却した場合の税金についてご教示願います。
A.一定の要件を満たすことで、空き家についても売却益からの3千万円控除が可能となります。
ご相談者様のように、相続後に実家を売却するケースも増えているようです。生前であれば、「居住用財産の3千万円控除の特例」が活用できるケースが多いですが、相続後の被相続人の居住用財産(空き家)については原則としてこの特例の適用は受けられません。
ただし、一定の要件を満たすことで、空き家についても売却益からの3千万円控除が可能となります。したがって、ご相談者様の場合についても、要件を満たせば売却益の2千8百万円について課税されないことになります。
解説1 相続発生後の空き家に係る譲渡所得の3千万円控除
居住用財産の特例は、居住用家屋及びその敷地の売却について売却益から3千万円を控除する制度です。ただし「居住している」ことが要件であることから、相続発生後の空き家については原則として適用されませんが、次の要件を満たすことにより3千万円の控除を受けることが可能となります。
(1)空き家についての要件
①相続開始の直前において、被相続人の居住用の家屋であること
(注)平成31年度改正により、老人ホーム等に入所している場合であっても、要介護認定等を受けているなどの要件を満たすことで、特例の適用が受けられることになりました。(従来、老人ホームに入所した場合には、要件を満たさないことから特例が適用できませんでした)
②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(ただし、マンション等の区分所有建物を除く)であること
③相続開始の直前において、被相続人が一人でくらしていたこと
④譲渡した家屋等は、相続時から譲渡時まで空き家であること
(2)譲渡の要件
①譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること
②相続開始から3年経過する年の年末までの譲渡であること
③2019年4月1日から2023年12月31日までの譲渡であること
(3)2千8百万円の売却益に対する課税
不動産の売却益に対する税率は20%であることから、特例の適用を受けることにより560万円の税負担が軽減されることになります。
〈原則〉 2千8百万円(売却益)×20%=560万円
〈特例〉 2千8百万円(売却益)-2千8百万円(控除)=0
解説2 実家の処分で利益が生ずるケース
先祖代々の土地を相続した場合、土地の取得費が低いケースが多く、多額の利益が発生するものと予想されますので、空き家の3千万円控除の活用を検討する必要があります。
解説3 実家を相続した後の留意点
(1)共有で相続した実家を売却する場合
共有財産を売却する際には共有者全員の同意が必要となりますので、契約の際に争うことのないよう、売却代金など売買契約の内容について事前に兄弟で話し合うことをお勧めします。
(2)代償分割
兄弟のうちどちらかが実家を相続し、もう一人には代償金を支払うことで遺産分割をする方法ですが、代償金をいくらにするか等に留意する必要があります。
(3)売却後の贈与
兄弟のうちどちらかが実家を相続し売却した後、譲渡代金を贈与する場合には、多額の贈与税が発生しますのでご留意下さい。
まとめ
空き家については、県内においても放置されるケースも多くなってきており、老朽化による景観や衛生上の問題、防災や防犯上の問題から近隣とのトラブルも増加するものと考えます。
そのことから、相続等によりやむを得ず売却するケースもあり、この場合、譲渡所得の特例が利用できれば節税額が大きくなりますので、売却の方針であれば不動産会社等への早めのご相談をお勧めします。