知っておきたい 相続の基礎Q&A File.16
週刊かふう2020年8月28日号に掲載された内容です。
死後認知による相続について
母親との親子関係は出生により明らかとなりますが、戸籍上父親欄が空欄となっているケースもあります。このような場合、父親の相続について相続権を取得するためにどのような手続きを経る必要があるのか確認しましょう。また、父親が死亡していた場合の手続きについて見ていきましょう。
Q.私や母はこれまで父から全く援助を受けてこなかったので、せめて父の財産の一部だけでも相続したいと思うのですが。
私は、ずっと母一人子一人の家庭で、母親に女手一つで育てられてきました。母に父について尋ねたこともありますが、母は私が赤ちゃんの時に父は亡くなって結婚はしていないと言うのみで、詳しい話はしようとしなかったので、私も詳しいことは聞かずにいました。
ところが、最近新聞の死亡広告欄を見た母が、大事な話があると言ってきました。母の話を聞いてみると、実は私の父はこの新聞の死亡広告に載っている方とのことです。どうやら、死亡広告欄を見る限り、父は家などいくつかの不動産を所有し、すでに父の奥さんは亡くなっているようですが、子どもが3人おりご健在のようです。私や母はこれまで父から全く援助を受けてこなかったので、せめて父の財産の一部だけでも相続したいと思うのですが、もう父は亡くなっているので難しいでしょうか。何か方法はないでしょうか。
A.父親の認知がされていない子が父親の相続権を得たいという場合、認知の手続きを経る必要があります。
婚姻関係にない男女間に生まれた子について、母子関係は分娩(ぶんべん)の事実によって当然に生じますが、父子関係は認知の手続きをすることによって生じます。そのため、今回の相談者のように、父親の認知がされていない子が父親の相続権を得たいという場合、認知の手続きを経る必要があります。
認知の手続きにはいくつかの種類があり、父親が存命中に自分の意思で自分の子どもであると認めて認知届を市町村役場に提出する任意認知の手続き、父親が任意認知を拒む場合に子が父親に対し裁判手続きによって強制的に認知させる通常の裁判認知の手続きなどもありますが、これらの手続きは父親が既に亡くなっている本件の場合はとることができません。
今回のケースの場合、父親の死後(原則として3年以内)に認知の訴えを提起するいわゆる死後認知の手続きをとる方法があります。本来であれば父親を相手として訴訟をするのですが、もう亡くなっているので代わりに検察官を被告とすることになります。
この死後認知の手続きが認められると、生まれた時にさかのぼって父親の子どもであったとみなされて相続権が発生しますので、相談者は相続人として父親の遺産分割協議に参加することになります。他の相続人が父親の子ども3人ということであれば、相談者の相続分は4分の1となります。
もっとも、いわゆる死後認知の手続きは父親の死後3年以内ならば提起することができるとされ、裁判が終わるまである程度の期間は必要なことから、認知請求が裁判で認められた時点で、既に父親の遺産分割が完了していることがあります。すでに遺産分割協議が済んでいる場合、もう一度最初から協議をやり直すとなると他の相続人の権利を著しく害してしまうことがあります。そのため、他の相続人に対して金銭の支払いを請求することで利害調整を図るものとされています。
したがって、死後認知の手続きが認められた時点で遺産分割協議が終了していた場合、法的に認められる手続きは相続分の価額請求のみで不動産を取得することは相手方の合意がなければできないことになります。
価額請求は、単純な金銭の支払い請求権であるため、通常は民事訴訟手続きによって実現することになります。