「蔵」(※)が生むゆとりの時空間が 家族をやさしく包む家
- DATA
- 設 計: 間+impression
(担当/儀間徹、儀間達紀) - 敷地面積: 169.92㎡(約51.40坪)
- 建築面積: 98.70㎡(約29.85坪)
- 延床面積: 98.29㎡(約29.73坪)
- 用途地域: 第一種低層住居専用地域
- 構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2022年1月
- 建 築: 株式会社沖秀建設
(担当/池原元勝) - 電 気: 有限会社開成電設
(担当/玉那覇裕亮) - 水 道: 三建設備株式会社
(担当/潮平里治) - キッチン: 株式会社クチーナ沖縄
(担当/比嘉智恵子)
明るく閑静な住宅街に建つNさん宅は、スキップ構造を取り入れた建坪約30坪の平屋住宅です。シンプルでナチュラルな装いの中に、ホームシアターや大型水槽など、ご夫妻のこだわりが無理なくちりばめられています。
週刊かふう2022年5月27日号に掲載された内容です。
空間を立体的に活用。収納の上に部屋を重ねる
蔵(※)がほしい。蔵(※)を生かして立体的な変化に富んだ、ゆとりのある空間がほしい。もっと言えば、そんな理想が具現化された「建築士さんの自邸と同じ家がほしい」。ここで言う蔵(※)とは、土壁でできた日本の伝統的な蔵ではなく、ある設計意図に基づきつくられた収納スペースのこと。高さが1・4メートル以下の空間は階数・容積率に算入されないため、蔵(※)の上下に生活フロアを重ねれば、Nさん宅のような平屋でも2階建てと見まがうほどの開放感を実現できます。
Nさんは夫婦と子ども2人の4人家族。2年前に土地を購入したのとほぼ同じタイミングで依頼した建築士と出会い、「住宅紙で見た作品がとても好みだったので、見学会やご自宅を訪問させてもらったら、実物はもっと魅力的で。その時点で心は決まりました」。しかし「同じ家」の望みはかなわず、「ライフスタイルや敷地条件は百人百様だから」とご夫妻は宿題を課され、夜な夜な解答を作成。「LDで20畳以上希望。ダイニングには食事・勉強・団らんに兼用できる2・2メートルのテーブルを入れたい。子ども室はスキップを上がって左右に一部屋ずつ。キッチンはすっきりと掃除しやすく、毎回立つのが楽しみでやる気が出る空間にしたい」等々の要望を伝え、現在のプランにまとめ上げてもらいました。
蔵(※)があるのはLDの隣。和室・洗面室に回り込んだ両サイドに入り口の扉があり、隠し倉庫のような構造になっています。蔵(※)の上には要望通りに二つの子ども室が並び、両室ともに3畳プラスロフト収納1畳という”おこもり感”がある環境ながらも、吹き抜けに面した折り戸を開ければ、真下にいる家族と顔を合わせることができます。また頭上にはLD・子ども室と連続して勾配天井が架かり、空間全体のボリューム感と居心地の良さを引き立てています。
生活の変化を許容するナチュラルなデザイン
Nさん宅が建つのは広さ約50坪の北東角地。傾斜屋根と相似した三角形のシャープな庇の下にエントランスのドアがあり、開けるともう一つドアが現れる二重玄関は、建築士の自邸を手本にしたもの。室内は細長い敷地形状に沿うようにLDKが真っすぐに伸び、蔵(※)と半屋外のテラスがそれぞれ両隣に置かれています。
「間取りはほぼファーストプラン通りです。蔵(※)があるので他の収納を確保できるか少し心配していたのですが、キッチン横のパントリーに冷蔵庫を収めたり、寝室の横に6畳のWIC(ウオークイン・イン・クローゼット)を併設したり、当初からの要望を無理なく機能的にかなえてもらえました」
デザインの主張は極力抑え、「生活するにつれて原色系の物が増えていくだろうから、建築そのものが目立ちすぎないように」とナチュラルな色合いでコーディネート。すっきりと整った雰囲気の中に、リビングのホームシアターや水槽設備など、趣味的な要素も盛り込みました。「家づくりを始める以前から、FPに相談してライフプランを立てていたことが大きかったですね。どれだけ予算をかけられるのか詳細に把握していたので、何をするにもスムーズに判断できました」とご主人は振り返ります。
新居で暮らし始めて半年足らず。建築中は頻繁に現場へ足を運び、念入りにシミュレーションを繰り返していたため新しい環境にもすぐなじみ、「いま実際にこうして、イメージ通りの住まいで生活できていることが何よりの喜びです」と笑うご夫妻。花木のインテリアでセンスよく彩られた室内を眺めながら、「もう少し物を増やしても大丈夫そう。アートを飾ったり、植栽を増やしたりしてみようか」とゆっくり検討しています。
写真ギャラリー
敷地条件に素直に従ったプランの中で空間同士の最適な間合いを計る
設計者:儀間徹さん(左)、儀間達紀さん(間+impression)
敷地条件によってプランが規定されることは多々ありますが、今回のNさん宅もその一つです。計画地は整然と区画整理された住宅街にある北東角地で、南側・西側には住宅が隣接し、二方道路のうち東側は歩行者専用。おのずと北側道路面に駐車場とエントランスを置き、メインの採光面を東側に取ってLDKを並べるという現在の形態が定まりました。家事効率を考えれば、水回りやWICなどはキッチンの近くにまとめるのがベストですし、要望のあった「蔵」(※)をリビングに併置してその上に子ども室を設ければ、団らんの場とプライベート空間とのつかず離れずの距離感を保つことができます。またこれまでの経験上、LDKが直線的に連続したプランは使い勝手が良いと感じており、南北に細長い敷地形状は、効率的な生活動線を組み立てる上でも好条件でした。
小屋裏や床下などの余剰空間を利用した高さ1・4メートル以下の収納スペース、いわゆる「蔵」(※)を取り入れたプランは、私たちの事務所で多数の実績があるため、家づくりの相談に来るほとんどの方が希望されます。Nさん宅では子ども室の床下に配置した「蔵」(※)の他、子ども室の両サイドにある一段高くなった部分も「蔵」(※)として設計しています。真下はそれぞれ和室、洗面室にあたり、ともに天井高が必要ないスペースのため、勾配天井の頂部から1・4メートルの空間をロフト収納として有効活用しました。
意匠面では私たちの事務所の標準仕様をベースに、Nさん好みの材料を取り入れてナチュラルな雰囲気に整えました。フローリングは湿度変化による伸縮が少ない無垢のチーク材を施工し、木材の呼吸を妨げない自然塗料を塗装。室内は数センチでも広く使えるように、下地材を必要とするクロスは極力使用せず、ほとんどの壁と天井は塗装で仕上げています。
隣り合う空間の間合いやメリハリといった要素も、住み心地の良さを求める上では大切です。各居室のサイズや寸法は、最初の打ち合わせ段階から緻密に数値化して提案し、例えば寝室は「広さは最小限でいい」との要望をかみ砕いて4・5畳に設定。子ども室は将来の独立後の使い方まで考え3畳に抑えつつ、LDとの境界を全開放できる折り戸にして閉そく感を和らげるなど細かく計算しています。
(※)ミサワホーム株式会社は、住宅内に開発、創造した収納空間を『蔵』と命名しています。