個と家族の時間が交差する ホワイトベースの明るい家
- DATA
- 設 計: 門一級建築士事務所
(担当/金城豊) - 敷地面積: 386.68㎡(約116.97坪)
- 建築面積: 148.99㎡(約45.06坪)
- 延床面積: 140.34㎡(約42.45坪)
- 用途地域: 無指定
- 構 造: 壁式鉄筋コンクリート造
- 完成時期: 2022年3月
- 建 築: 株式会社金城組
(担当/伊是名隆) - 電 気: 日章電気工事株式会社
(担当/神里真俊) - 水 道: 株式会社琉泉設備
(担当/小橋川学) - キッチン: 大里総合建材株式会社
(担当/大城盛正)
開けた視界に歴史ある三つの森を捉える、地域の個性を感じる土地。
幼い頃から同じ風景を見て育ったTさんは、夫婦と子ども3人が暮らす新たな生活拠点として、白を基調にした建坪約45坪の平屋を築きました。
週刊かふう2022年8月26日号に掲載された内容です。
建築士事務所のオフィスデザインに憧れて
白は無彩色で清潔感があり、他のどんな色にもなじみやすく、自身以外の要素を引き立てる力があります。内外装ともに白をふんだんにまとったTさん宅は、壁や天井のベースをはじめ、室内の床も全室、白いタイルで統一。真っさらな空間に家具や建具、ワンポイントが映え、家族5人が織りなすあらゆる生活シーンが引き立ちます。四方の窓越しに眺める景色の中にはいつも森の緑が映り込み、わが家の記憶の一部として無意識に強く刻印されます。
「設計を依頼したのは、同じ町内にある建築士事務所です。白い壁と大きなガラスで構成されたオフィスの外観はとてもスタイリッシュでインパクトがあり、前を通りかかるたびに”いつかこんな家を建てられたらすてきだな”と思いながら見ていました」と奥さま。地域の行事などを通じて建築士本人と直接触れ合う機会もあり、人柄にも太鼓判。家づくりの計画前から既に「指名は済ませていました」
デザインの方向性としてはオフィスの雰囲気を引き継ぎつつ、実用面では「天井が高く開放感があって、掃除・片付けがしやすい家」をリクエスト。コアスペースであるLDKの天井は3.5mの高さがあり、まるで2階建て住居の吹き抜けのよう。キッチンはフルオープンのアイランド式を採用し、照明はダウンライトと間接光でまとめるなど、どこを見ても引っ掛かりが少なく視線が縦横に広がります。居室間の移動もスムーズで家事効率が良く、白が際立つフレッシュな美観を労なく保つことができます。
団らんのひとときも、一人一人の時間も大切に
家族団らんの場であるLDKは明るく広く、パーソナルスペースは小さくコンパクトに。それでも「一人一人の時間を大切にしたい」との思いから、個室は5名分用意しました。
子ども室は玄関を上がってリビングに入る手前にあり、一室あたり3畳というまさに就寝&勉強の専用ルームです。一方でご夫妻の個室はベッドルームに併設し、子ども室からキッチンを回り込んだ場所に置かれています。いわば両者は南北対極の位置にありますが、「どこにいてもお互いの気配が感じられるように」と考え動線設計にも反映してもらい、トイレをベッドルームの脇に配置するなど細かな工夫を凝らしました。
これらの個室をはじめ、プライベートなエリアは遊び心が満載です。例えばご夫妻の個室にはそれぞれお気に入りのカラーを採用し、仕事や趣味に没頭できる空間に。ウオークインクローゼットは「服選びの際に気分が上がるように」と華やいだ色柄のクロスで化粧したり、トイレ天井に色付きガラスを入れて光の変化を楽しんだり、ホワイトベースのLDKとはひと味違った雰囲気に仕上がっています。
「施工してくれたのも地元の建築会社さんでした。建築中はたくさんの有益なアドバイスをもらい、トイレ天井も”高価なガラスではなく予算を抑えた汎用品にして、気分次第で塗り替えられるようにしたら”と提案されたもの。建築士さんともども、図らずも地域ぐるみで本当にいい家を建ててもらえました」
新居で暮らし始めて約半年がたち、「居心地も使い勝手もイメージ以上。自然と気持ちに余裕が生まれ、家で過ごす時間が多くなりました」と心境を語るご夫妻。今後の長いライフステージを見据え、「年月とともに愛着の湧く家にしていけたら」と話しています。
写真ギャラリー
土地と風景の記憶を継承する時間軸を取り入れた住宅設計
一級建築士:金城豊さん
風の流れ、光の強度を計算して造形に生かす
”白”が効いた浮遊感のある空間デザイン
いま現在の施主さまの要望に的確に応えると同時に、過去から未来へ流れる時間の中に、目下の住宅プランをどう位置付けるか。家が建つ土地には必ず固有の歴史や背景があり、そこに堆積された記憶を継承するような、豊かな建築をつくりたいと常に考えています。
今回の計画地は、南風原発祥との言い伝えが残る御嶽をはじめ、由緒ある三つの森が見える場所にあります。開口の取り方はもちろん光量や周辺環境を意識して決定するものですが、Tさん宅では森の見え方にも配慮しながら、東西南北すべての方位に窓を設置。ご夫妻だけではなくこの家で育つ3人の子どもたちにとって、日常的な視界の一部に森の風景をとどめ、地域とひも付いた記憶を残してほしいとの思いを込めました。
通風・採光計画としては、沖縄では強弱の差はあれど、年間を通じて全方位で風が舞っているとのデータに基づき、躯体形状に凹凸を付けて開口の位置・サイズを調整し、あらゆる方向から風と光を引き込んでいます。例えば芝庭は、最も優勢な南からの風を積極的に取り込めるように敷地南東に置き、リビングを大きく開いてL字形に躯体をデザイン。庭と対面の位置にあるリビング北側にも掃き出し窓を設け、南北の風の通路を確保しました。
一方で西面は、生活スペースへの日射の影響を抑えるべく窓を細長く絞り、廊下伝いに採光だけが得られるように工夫しました。加えて、家の中ほどには換気促進装置として坪庭を置き、室内に舞い込んだ風を集めて屋外へ抜いています。
平面的にはLDKを中心に、ご夫妻の空間・子ども室・水回りをそれぞれ一定の距離を保ちながらレイアウト。子ども室をリビングの先ではなく手前に置いたのは、帰宅後はまず荷物を自室へ片付けるという生活習慣の定着を図り、LDKが乱雑になるのを防ぐ目的があります。また意匠面では、ベースカラーである白を生かしたコーディネートを目指し、すっきりと清潔感ある印象を損ねないように照明も間接光を多用しました。LDKの天井回りの照明をともすと、床のタイルに反射して室内全体が浮遊しているような雰囲気が生まれ、色合いと光量のバランスがうまく取れたのではないかと自賛しています。
設計・施工会社
門(じょう)一級建築士事務所
TEL:098-888-2401 | http://www.jo1q.com/