自然の移ろいと経年美化を楽しむ 建築家の自邸
- DATA
- 設 計: 株式会社クレールアーキラボ
(担当/畠山武史) - 敷地面積: 630.82㎡(約190.80坪)
- 建築面積: 222.81㎡(約67.40坪)
- 延床面積: 211.60㎡(約64.00坪)
- 用途地域: 第一種低層住居専用地域
- 構 造: 鉄筋コンクリート
ラーメン構造 2階建て - 完成時期: 2015年1月
- 建 築: 有限会社仲真組
- 電 気: 合資会社中江電気建設
- 水 道: 有限会社ライフ工業
クレールアーキラボ代表の畠山武史さんは2015年、東海岸を見渡す丘上に、打ち放しのコンクリートを基調にした自宅を新築しました。
本紙で紹介した6年前と比べると室内には一段と植栽が増え、さらに「周囲の自然とも徐々になじんで、経年美化が進んでいますね」とのこと。
今回はその建築的な特徴と変化の様子をご紹介します。
週刊かふう2022年10月28日号に掲載された内容です。
無垢で素な材料を選定し、海の眺望を室内に取り込む
キッチンからリビングを抜けて半屋外のテラスまで、真東の海を目がけて一直線に伸びる空間は、眺望を際立たせるための壮大な仕掛けのよう。ぽっかりと口を開けたテラスの先に目をやると、「外を”取り込む”とはこういうことか」と腹に落ちます。
「自然を身近に感じていたい、自然に癒やされたいと願う人の感性は、今も昔も変わらないですからね」。畠山さん宅では海の青や木々の緑をはじめ、水盤のせせらぎ、光の移ろいなど、心に響く自然の要素が満載です。
自邸の設計にあたり、真っ先に優先したのは、敷地固有の見晴らしの良さを生かすことでした。海に向かって真っすぐに家の軸方向を定めてコンクリートの壁を伸ばし、用途に応じた四つのエリアを横並びに配置することで、各エリアの眺望を確保しました。
間取りとしては、パブリックな性格のLDKの奥にサニタリーとプライベートルームが続き、ご夫妻と愛犬が暮らす住宅部分を構成。一方で前面道路沿いにある最も手前のエリアは当初、畠山さんのオフィスにしていましたが、スタッフ増員で手狭になったため店舗用に貸し出しました。現在は海の見える隠れ家カフェとして、ひそかな人気を集めているそうです。
材料の選定にもこだわりました。「経年変化というより経年美化を楽しめるもの、歳月とともに変化する姿に味が感じられるもの」を求めて、「無垢で素」な素材を中心にセレクトしました。例えば躯体のコンクリートは打ち放しにして、塗装ではなく型枠の木目を付けて意匠性をプラス。LDKの床面にはナチュラルな割り肌の玄昌石を選び、主寝室と洋室にはロックファーの無垢材を施工しました。いわば「石と木とコンクリート」が畠山さん宅の主材料です。
沖縄の在来植物を積極的に活用し、植栽をデザイン
完成から約8年。「50年先、100年先は今よりもっと周囲の自然になじんでくれれば」と願う畠山さんにとってはまだ新築同然かもしれませんが、それでも狙い通りに経年美化は進み、日に日に愛着が増しています。「無垢な材料だからメンテナンスも容易にでき、手をかけた分だけ味に変わります」。
大きく変わったのは、新築当時と比べて室内に緑が増えたこと。奥さまの畠山真子さんがディレクターを務める植栽デザイン部門「KISETSU」(キセツ)の本格稼働に伴い、自宅を実験台にする機会が多くなりました。とりわけキッチン横の中庭は趣が一変し、「沖縄の在来植物の美しさをもっと広めたい」との真子さんの思いから、ヘゴやシダ、琉球石灰岩を導入してガラリと造り替えました。唯一残したブーゲンビリアの木は、壁の外まで顔を出すほどに成長し、畠山さん宅を彩るファサードの一部になっています。
自慢の海の眺望は、新築当時から一切変わりません。LDKのどこにいても飛び込んでくる景色は同じですが、リビング・ダイニング・キッチン・テラスの床面にはそれぞれ10センチから15センチの段差があり、その時々の居場所によって、視線の高さと奥行きに自然と変化が生まれます。設計上のそんな工夫が、新鮮な感覚を保つ上で大いに役立っています。
「新たな発見も多いですよ。満月の日に海面が月影に照らされて浮かび上がる幻想的な光景は、この上ない驚きでした」とご夫妻。当たり前に家を愛で、周囲の自然に寄り添う姿勢が、居心地をますます高めているのでしょう。
写真ギャラリー
「変わるもの」はより美しくなるように。
「変わらないもの」は深掘りして、住み手の根源意識を刺激する
一級建築士:畠山武史さん
変わるものと変わらないもの。人々の実生活の場である住宅は、風雨や日射、あるいは住み手自身の影響を受けながら、歳月とともに少しずつ様相を変えていきます。経年による変化は時に劣化と同義語で使われますが、私がハウスメーカーに勤めていた当時の上司は逆に肯定的に捉え、特に「味」や「風合い」のような変化は「経年美化」と表現することを教わりました。
もちろんどんな条件下でも経年美化が進むわけではなく、まずは材料の選定が重要だと考えています。その点、自宅で用いた石材、無垢材などは有効であり、打ち放しのコンクリートにも杉板型枠、普通型枠の木目を転写することで、粗く豊かな表情を演出。それぞれの材料がもつ素の質感を空間全体に引き出しました。無垢な材料だからこそメンテナンスを単純化でき、長年暮らしていても飽きにくく、経年変化=経年美化につながります。
このように住宅に変化は付きものであり、デザインのトレンドや技術も日に日に刷新されるものですが、一方で自然を愛でる人の心は今も昔も変わるものではありません。見晴らしが抜群の敷地だから、周囲の自然に極力負荷をかけずに、海の眺望を最大限に生かした設計をする。室内の壁は大開口を介して屋外まで連続させ、庇も室内の天井高とそろえることで内部と外部の一体感を高め、自然と対峙しつつも自然と一体化したような根源意識を喚起する。他にも深い庇と床面の高さの変化で風の流れを助長したり、小川のせせらぎを思わせる水盤を玄関脇に設けたり、私たちの家はある意味において、とても普遍的で原始的な住宅といえるかもしれません。
今年2月に植栽デザイン部門「KISETSU」をスタートさせたことで、インテリアにしろ外構にしろ、自然とのつながりを今まで以上に強く意識するようになりました。今後は住宅のハード面だけではなく、生活を取り巻く環境を一緒に考えながら、より快適な住まいづくりのお手伝いができればと考えています。
設計・施工会社
株式会社クレールアーキラボ
TEL:098-955-1823 | http://www.clairarchilab.com