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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

DATA
設  計:  一級建築士事務所
      アトリエ ハコ
     
敷地面積: 229.75㎡(約69.49坪)
建築面積: 106.85㎡(約32.32坪)
延床面積: 90.76㎡(約27.45坪)
用途地域: 第一種中高層住居専用地域
構  造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2023年8月
建  築: 株式会社 知花工務店 
     (担当/知花司)
電  気: CAN電気
     (担当/喜屋武辰憲)
水  道: 株式会社 Hys企画 
     (担当/前城裕二)

昔ながらの良さと現代的な感性が溶け合うモダンな住まいには、暮らしを心地よく整える幸せの知恵がありました。

週刊かふう2023年11月24日号に掲載された内容です。

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

沖縄の原風景が残る心豊かな環境に

 すっきりと晴れた空に、花ブロックとモダンなフォルムが映えるOさんのお住まい。昔ながらの集落に新しさを吹き込むような意匠が、とても印象的です。
「すぐ近くの賃貸住宅で暮らしていましたが、周辺の自然や沖縄の原風景のような町並みがとても気に入って土地を探したところ、こちらが見つかりました」と、当時を振り返る奥さま。
 古い井戸と石垣が残る屋敷跡。「裏山から流れてくる水量が豊富と聞いて井戸は残すことにしましたが、石垣の石材は地域の由緒ある史跡の修復に使っていただくことにしました」と話すOさん。

 そんな場所にモダンな住宅を建てることになったのは「最初は私が『週刊かふう』で紹介されていたアトリエ ハコの『石川の家』に目を留めて、後に夫が『沖縄の家51+』で同物件の記事を直感的に気に入ったところから、アトリエ ハコの西門太一さんに設計をお願いすることにしました」と、奥さまが説明してくれました。
「元の住まいは風がほとんど通らなく暑かったので『風が抜ける家』を第一に、防音のピアノ室を設けること、キッチンは3つ口であることなど、いくつかの希望の他は西門さんへ一任しました」とおおらかに笑うOさん。西門さんは「逆に『他に注文点はないですか?』と不安になるほど、任せていただきました」と言葉を添えます。
 その成果は、この地の風の通り道に広いリビング・ダイニングを配置して両側に各室をレイアウトした、大胆にして理にかなうOさんの住まいとなって結実。「この夏はほとんどクーラーを使わずとも涼しく過ごせました」というほどの快適さが生まれました。

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

防音のピアノ室、庭にはアタイグァーを

 クラシックのピアニストであるOさんは自宅に防音のピアノ室を望みました。
「音が外に大きく響かないことと、レッスンを受けに来る生徒さんが家族の生活エリアを通らずに入退室できるよう、外の雨端(アマハジ)側に通用口を設けてもらいました」

 Oさん宅の特徴ともなっている花ブロックでカバーされた雨端は、天窓がある玄関前からアタイグァー(沖縄方言で家庭菜園のこと)や駐車場がある庭の方向へ延びる半戸外空間です。沖縄の伝統家屋ではひさしを深くした犬走りを雨端と呼び、強い日差しや雨を屋内に入れない工夫としていました。
「そういえば和室や子ども室、キッチンの窓は下部を外側に押し出すタイプになっていて、急に雨が降っても室内に打ち込まないので、これは快適だと思っていました」とOさん。

 料理することが大好きと話す奥さまは「アタイグァーでハーブを育てたいと思っています」と、丁寧な暮らしを実践。キッチンにはクバの葉で編んだ鍋敷きや杓子など沖縄の民具がセンスよくディスプレーされています。
「やちむん(沖縄の焼物)も好きで集めているため、大きめのカップボードを造作してもらいました」とのこと。

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

本当に必要なもの、大切にしたいこと

 夫妻は子どもたちが独立した後を考えて平屋を希望。現在は子ども室としている部屋は、その時々のニーズに合わせて間仕切りを可変できるようにしています。また、これまでの生活を振り返って浴槽は要らないと考え、ホテル仕様のレインシャワーを取り付けたシャワールームを選択しました。「限られた面積を有効活用でき、掃除もラクになりました」と感想を述べるOさん。

「餅は餅屋」と繰り返し、自分たちのライフスタイルに合った本当に必要なものを見極めることに集中し、その答えから導き出されるカタチや細部の仕上げは設計士へ委ねたことが、Oさん宅のシンプルでありながら機能的な住まいへたどり着いたといいます。

 家を建てるにあたり屋敷の御願をした際に「井戸を使ってくれて、土地の神さまも踊りながら喜んでいるよ」と告げられたOさんの住まい。お気に入りの環境に住まいを構え、自然を取り入れた快適さ。新たに手に入れたモダンな生活空間に、旧宅で愛用してきたアイテムをミックスして紡ぎ続ける家族の物語。夫妻のしっかりとした考えや快適な住まいが、子どもたちの豊かな感性を育む素地となっています。

写真ギャラリー

モダンと伝統が息づく風の抜ける家

住まいとしての「ハコ」に暮らす家族へ「+α」を提案する

西門 太一さん/一級建築士 一級建築士事務所 アトリエ ハコ 主宰

『週刊かふう』や『沖縄の家51+』に掲載された作品紹介から、Oさん夫妻の依頼を受けることとなった一級建築士事務所アトリエ ハコの西門太一さん。その他の作例もモダンなフォルムとシンプルなレイアウトが印象に残る共通の特徴を持っています。
「住まうご家族のライフスタイルは千差万別なので、それぞれに最適と考えるプランを提案していますが、基本的にシャープでシンプルな設計が多いです」と自らの設計スタイルを話す西門さん。
 家づくりは予算との兼ね合いが重要。希望と予算を精査しながら、設計に臨むといいます。
「まずは家族みんながいる場所に風を通して暮らしやすく、と考えます」

 Oさんの住まいは前面と後方の道路幅が狭い昔ながらの集落にあり、当初の道路境界線から敷地の場所によって約45センチ〜1メートル25センチもセットバックする必要がありました。また井戸が残されており夫妻の意向でそのまま活用することになったので、躯体をどこに配置するかを熟考しました。

 屋内レイアウトは「風の抜ける家」をコンセプトに、家の中央に風の通り道と重なる東南から北西にかけてLDで貫き、東南側にはBBQなどもできるセカンドリビングに活用できるデッキテラスも設けました。北の角に洗面室やシャワールーム、トイレなどの水回りを集約し、沖縄の伝統的な家相の考えも一部に取り入れています。

 ラフ案ではアイランドタイプだったキッチンを風の通りをよくするため半独立型に変更しましたが、仕切りは設けずLDとの一体感を演出。ダイニングに住まい全体が把握できる家事カウンターを設置して「効率的な家事のサポート、暮らしやすさや掃除のしやすさ」などに配慮しています。
 広く取った子ども部屋は現在は1部屋として利用されていますが、子どもの成長に合わせて2室に仕切ることも考えて窓や出入り口は2カ所ずつ用意しています。 

 一番の特徴とも言えるのはピアノ室です。「プロのピアニストなので、音も大きくなりがち」という課題から、音響建築家とも相談して開口部を小さめにして複層ガラスを取り付けた窓や、防音・吸音に配慮した壁などで防音性能を高めています。レッスン生徒さんのために、花ブロックでカバーした雨端から出入りできるようピアノ室専用の通用口も設置しました。
「Oさん夫妻は細部までの希望は挙げずに任せてくれたため、自由に提案できました」と振り返る西門さん。
 花ブロックや雨端など沖縄の伝統的家屋の特徴も取り入れながら、現代の暮らしに寄り添うモダンな住まいが新しい日々を彩ります。

設計・施工会社

一級建築士事務所 atelier haco(アトリエ ハコ)

TEL:098-894-6574https://haco-at.jimdo.com

TEL:098-894-6574https://haco-at.jimdo.com

那覇市小禄1-17-12 高良ハイツ108

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