琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A ヒヌカンの代理ウグヮン
週刊かふう2022年11月11日号に掲載された内容です。
ヒヌカンの代理ウグヮン
Q:高齢の母が施設へ入ることになり、実家のヒヌカンをみる人がいなくなります。兄は独身、私は嫁ぎ先にヒヌカンがあります。緊急事態として、私が実家のヒヌカンをみられますか? みられるとしたら、なにかしきたりはありますか?(Tさん)
A:Tさんと同じく、さぞ、お母さまもヒヌカンのことをご心配かと思います。ご実家のヒヌカンの今後について、ご一緒に考えていきましょう。
《ヒヌカンは継げる? 継げない?》
沖縄のしきたりでは、ヒヌカンの継承について、さまざまな考え方があります。とある地域・家庭では、お仏壇のトートーメーと同じく、『台所のヒヌカンは屋敷永代』として、家屋・敷地を相続する次世代が継げるという考え方があります。また、とある地域・家庭では、『台所のヒヌカンは女性一代』として、現在、ヒヌカンをみられている女性のみに限定し、次世代は継げないという考え方もあります。
『台所のヒヌカンは屋敷永代』→「ヒヌカンは家につく」と判断した場合、Tさんのご実家では長男であるお兄さまがヒヌカンをみるご意見が出てこようかと思います。
一方、『台所のヒヌカンは女性一代』→「ヒヌカンは人(女性)につく」と判断した場合、Tさんのご実家のヒヌカンは、お母さま以外はみられないご意見が出てこようかと思います。
ここで記憶に留めておきたいことは、「ヒヌカンは台所の女性の神様」で、「神様は中性的存在」という考え方もあることから、ヒヌカンを継承する人は、必ずしも男女の性別に限られていないという点です。
まずは、Tさんのご実家がどちらの考え方なのか、目上の方々にご確認されることが肝要かと思います。その上で、「ヒヌカンは家につく」というご意見が中心であれば、継承するべく立場のお兄さまにご確認され、お母さまのヒヌカンをみられるお気持ちがないようでしたら、以下の代理ウグヮンを参考にしていただければと思います。
「ヒヌカンは人(女性)につく」というご意見が中心であれば、お母さま以外はみられないことになりますので、しかるべきタイミングで昇天ウグヮンというヒヌカンフトゥチ(ヒヌカン解き〈ヒヌカンのお敬いを終了させる儀式〉)を行うことになろうかと思います。
《代理ウグヮンの心得》
今回のご質問では、Tさんがお母さまのヒヌカンをみることができますか? との内容ですので、結論から申し上げますと、緊急事態に限り、一時的に可能となります。このことを沖縄では代理ウグヮン(御願)といいます。ただし、代理ウグヮンではいくつかの注意点があるといわれていますので、以下にまとめさせていただきます。
◎お兄さま・嫁ぎ先へご相談の上、代理ウグヮンのご承諾をいただくこと。
◎あくまでもお母さまの一時的な代理ウグヮンであることを心得ておくこと。
◎ヒヌカンの年中行事、旧暦朔日・十五日では、嫁ぎ先を優先し、代理ウグヮンであるご実家は後からみること。
◎ハナイチー(花瓶)のクロトン・チャーギ、ウサギムン(お供え物)のウブク(小山盛りご飯)・ウチャヌク(お茶の子〈3段積みのお餅3セット〉)などは、嫁ぎ先とご実家をウチジヘイシ(一部交換)せず、代理ウグヮンでは別々に準備すること。
Tさんのご実家を想うお気持ちに感銘を受けつつ、お母さまの健やかなる日々もご配慮申し上げながら、くれぐれも無理のない範囲での代理ウグヮンを心がけていただければと思います。
《代理ウグヮンのウグヮンクトゥバ・グイス》
代理ウグヮンには、丁寧なウグヮンクトゥバ(御願言葉)・グイス(拝詞)があるといわれています。一例を申し上げますので、もし昔ながらの沖縄のしきたりで行いたいようでしたらご参照くださればと思います。
「ワンネー、〇〇〇〇(お母さまのお名前)ヌ、代理ヌ、〇〇〇〇(Tさんのお名前)ヤイビンヤータイ。
チューヤ、〇〇〇〇(年中行事、旧暦朔日・十五日の名称)ヤイビン。
玉皇大帝(ぎょっこうたいてい〈ヒヌカンの上司〉)ヌ、シンカー(臣下)・〇〇家(ご実家のお名前)ヌ、ミーヒヌカンガナシーメー(御火之神加那志前〈ヒヌカンの尊称〉)。
ワッター、ヤーニンジュ・ウェーカー、ミーマントーティ、クミソーリヨータイ」
【現代語訳】
「私は、〇〇〇〇(お母さまのお名前)の代理の〇〇〇〇(Tさんのお名前)と申します。
今日は、〇〇〇〇(年中行事、旧暦朔日・十五日の名称)となっております。
玉皇大帝さまの臣下にあたる、御火之神加那志前(ヒヌカン)さま。
私たちの家族・親族をお見守りください」
※回答は、学術的な琉球・沖縄の民間信仰を参考にしています。沖縄の地域・家庭により、ウグヮンクトゥバ・グイスの内容は異なることがあります。