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琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 火葬場の火入れのボタン

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 火葬場の火入れのボタン

週刊かふう2023年3月17日号に掲載された内容です。

火葬場の火入れのボタン

Q:父の初七日のとき、よく当たると噂の占い師のところへ行きました。父は地獄へ堕ち、行き先がわからず迷っていると言われました。理由は、父の火葬のとき、母と私たち4人の娘の合計5人で火葬場の火入れのボタンを一緒に押したからだそうです。本当は、喪主の母1人で押さなければいけないのに、嫁いで住まいがそれぞれ違う娘たちが厚かましく一緒に押したため、父は行き先が5カ所に分かれ、迷いながら、三途の川が渡れなくなっているのだそうです。四十九日に、その占い師と火葬場へ行き、魂招きをすることになりました。ボタンを一緒に押したことは、そんなに悪いことなのでしょうか?(石垣市・Tさん)


A:Tさんのご質問から想像するに、現在はお父さまの中陰(ちゅういん)の期間中かと思われます。よく当たると噂の占い師の先生ですが、ご葬儀から間もない日々にあって、ご遺族に対して、かなり衝撃的な内容をお話されているように思われます。この先生のお話の真偽はともかく、わずかながらでもTさんたちご遺族の心のご負担が軽くなるよう、ご回答させていただければと思います。

琉球・沖縄年中行事 なんでもQ&A 火葬場の火入れのボタン

《行き先が定まる時系列》

 沖縄では、亡くなってから第7週の四十九日(しじゅうくにち)までの中陰の期間に、第1週の初七日(しょなのか)を始め7日ごとのご供養があることから、中陰のことを七日(ナンカ・シチビ)といいます。

 この中陰の期間中は、閻魔大王(えんまだいおう)さまに代表される10人の王さまにより、中陰の7回に百カ日(ひゃっかにち)・一周忌・三回忌の3回を加え、合計10回の裁判が執り行われるという『十王信仰』が沖縄でも言い伝えられています。
 この裁判では、故人さまのこれからの行き先が審議され、浄土(じょうど)=極楽(ごくらく)=グソー(後生)[※]に生まれるのか? 地獄に堕ちるのか? それ以外の別世界に行くのかが定まるとされています。

 平安時代の古典で、浄土・地獄などを世に広く知らしめた権威書である『往生要集(おうじょうようしゅう)』(著・源信和尚〈げんしんかしょう〉)を参考にすると、それが定まるのは三途の川を渡った後とされますので、お父さまが三途の川を渡れていないということは、時系列からみたら、まだお父さまの裁判・審議はなされていない、ましてや地獄には堕ちていないということにはなるのではないでしょうか?

《因果応報で定まる》

 古典的・一般的な浄土観・地獄観では、そこに生まれるか堕ちるかは、故人さまの生前の行い(思いも含む)によって定まるとの考え方があり、これを因果応報とか因果論などといいます。平たく申し上げますと、「善いも悪いも、自らが受ける結果(果)は、自らが作り出す原因(因)にある」ということになります。
 占い師の先生が、地獄を語るとき、その根拠は仏教思想によるところが大きいはずですので、因果応報・因果論、お父さまのこれからの行き先は、お父さまの生前の行い(原因〈因〉)が結果(果)として定まるということになります。
 つまり、火葬場の火入れのボタンをどなたが押そうと、どのように押そうと、それはお父さまご自身の行いではないので、そのことによってお父さまのこれからの行き先が定まるというような簡単なお話ではないということになります。

《専門家としての配慮》

 たとえ本来、喪主お一人でボタンを押すことが正しくとも、私に「火入れのボタンは、家族みんなで押してあげてもいいですか?」とのご質問があれば、「どうぞ、ご家族皆さまでお見送りしてあげてください」とお答えさせていただいています。
 辛さ悲しさを一人で抱えることもご供養、ご家族皆さまで分かち合うこともご供養。私は心の中で、「故人さまは、大切なご家族皆さまに見送られ、とても幸せなご生涯であったのでは」と思わせていただくことしきりです。

 Tさんへの回答としまして、私は、火入れのボタンを皆さまが一緒に押したことは、悪いことどころか、とても立派なありがたいお見送りをされたのではと、心より深く感銘を受けています。
 占い師の先生からして、もしかしたら本当にそのお姿が見え、相当の自信がおありなのかもしれません。回答者の私としましては、いつもセカンドオピニオン的な立場であり、そのお話の真偽をうかがう立場にはありませんが、少なくとも地獄という言葉がご遺族にとって、また中陰という悲しみの期間中にあって、一体どれほど周りを辛く苦しく悲しい思いに巻き込んでいくのか。信頼され、相談を承る専門家としては、今後、十分な配慮ができますよう学術研鑽の日々を願ってやみません。


※浄土と極楽とグソーは、同義か異義か賛否両論ある単語ですが、沖縄での一般的な事例に倣い、同義として拡大解釈しています。

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