知っておきたい 相続の基礎Q&A File.3
週刊かふう2020年2月21日号に掲載された内容です。
遺留分について
自分の財産を希望の誰かに譲る方法として、遺言などがありますが、遺言などをする際には遺留分に留意しておかないと、かえって相続人間の紛争の火種となってしまう場合があります。遺留分の計算や遺留分が侵害された場合の手続きや効果について押さえておきましょう。
Q.父が病気療養中だったのですが、今年になって亡くなりました。
父は昔ながらの考えが強く、入院する前に父が所有している自宅の土地と建物について、兄に全部相続させる遺言書を作っていたようです。母はもう亡くなっていて、兄弟は私と兄の2人です。父は5年前にも兄の事業資金のために1000万円を贈与していたので、父の財産は自宅の土地と建物以外にはわずかな貯金しかなく、自宅の土地と建物が全て兄のところに行くと、私はほとんど何ももらえないことになります。
遺留分というものがあると聞いたのですが、どのようなものでしょうか。どのような手続きをとればいいのでしょうか。
A.遺留分とは、わかりにくい言葉ですが、いわば強制相続分として相続財産から最低限相続させなければならない部分です。
前回ご紹介した通り、遺言は、財産を残す方の最期の意思をできるだけ実現させる制度です。他方で、財産を受け取る人にとってあまりに不公平なことになってはいけないので、法律は兄弟姉妹以外の法定相続人については被相続人の財産の一定割合を遺留分とし、これが侵害された場合に遺留分侵害額請求を認めるというかたちでバランスを取っています。子どもが相続人となる場合の遺留分割合は2分の1でそれを法定相続分で分けることになります。
例えば自宅の土地と建物の価額が合計2000万円で預貯金が0の場合について考えてみましょう。
遺留分算定の基礎財産の価額は、10年以内に行われた贈与も加えることになりますので、この場合不動産の価額である2000万円と5年前にお父さんからお兄さんに贈与された1000万円の合計で3000万円となります。
そして、子どもが相続人となる場合の遺留分割合は2分の1で、お父さんの相続人は相談者とお兄さんの2人ですから、法定相続分はそれぞれ2分の1となります。そうすると、相談者の方の遺留分は2分の1×2分の1で4分の1となります。
この場合、3000万円×4分の1で750万円が相談者の遺留分ということになり、相談者が遺言によりまったく財産を得ていないので、相談者の遺留分は750万円について侵害されている状態にある、と評価されます。
相談者は750万円の遺留分を侵害されているので、多く遺産を受け取ったお兄さんに対して750万円の遺留分侵害額請求をすることができます。遺留分侵害額請求の行使方法については決まった方式はありませんが、遺留分侵害額請求は原則として相続開始時から1年以内に行わなければ時効によって消滅してしまいますので、遺留分侵害額請求を行ったことを証明する資料を残すため内容証明郵便を利用することをお勧めします。
遺留分侵害額請求を行うことで、相談者の方は、不動産の所有権の一部ではなく金銭請求権を取得することになりますので、不動産についての権利主張をすることはできません。実はこの部分は2019年7月1日に変わった部分ですので、相続発生時がそれより前の場合ですと、違う結論になります。
もしお兄さんからどうしても遺留分侵害額の支払いが受けられず裁判を行う必要がある場合、家庭裁判所ではなく地方裁判所で裁判を行うことになります。