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知っておきたい 相続の基礎Q&A File.10

知っておきたい 相続の基礎Q&A File.10

週刊かふう2020年5月29日号に掲載された内容です。

賃貸と相続(賃借人死亡)について

自分たちの相続でなくとも、契約関係のある人に相続が発生した場合、対応が必要となることがあります。
今回は契約関係のある賃貸人が死亡し、賃貸人の相続人間に争いがありそうな場合、賃借人としてどのよう義務を負うのか、どのような対応が考えられるのかを見ていきましょう。

Q.父の代から入居されているお婆さんが1人で入居されていました。父とお婆さんとの契約は口約束で、契約書などは残っていません。

 私は、父から相続した小さな賃貸アパートを所有しています。だいぶ古い物件で、父の代から入居されているお婆さんが1人で入居されていました。ところが、最近このお婆さんが亡くなったとのことで、役所の方が事情を聞きに来ていました。父とお婆さんとの契約は口約束で、契約書などは残っていません。物件の中にはまだお婆さんの家具などが置かれたままになっており、これらを片付けてほしいと思っています。
 しかし、お婆さんの家族関係などはわかりません。役所の人の話だと、娘さんがいるようですが相続放棄をするとおっしゃっているようです。
 どうすればお婆さんの家具などを片付けてもらうことができるでしょうか。もし片付けてもらえない場合、こちらで片付けることができるでしょうか。

A.お父さまとお婆さんの間で賃貸借契約が成立しており、お父さまの貸主としての地位は相談者に相続されています。

 本件では、もともとはお父さまとお婆さんの間で賃貸借契約が成立しており、お父さまの貸主としての地位は相談者に相続されています。
 それではお婆さんの賃借人としての地位はどうでしょうか。賃借人としての地位も、貸主としての地位と同様に相続の対象となり、お婆さんの子どもさんがいるのであれば、通常は子どもである娘さんが賃借人としての地位を相続することになるでしょう。そうすると、通常はお婆さんの娘さんに対してお婆さんの家具などの片付けを求めることができます。
 ただし、例外もあります。お婆さんの娘さんが相続放棄をした場合は、娘さんはお婆さんの相続人にならず、賃借人としての地位も相続しないことになります。
 相続放棄は、相続の開始を知った時から3カ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出することによって行う必要があります。この期間内にお婆さんの娘さんが相続放棄の手続きを取った場合は、お婆さんの娘さんに対してお婆さんの家具などの片付けを要求することはできません。
 お婆さんの娘さんが相続放棄を行った場合、お婆さんの他の子どもがいればその方が相続人となり、他の子どもさんがいないのであればお婆さんの親またはご兄弟が相続人となります。なお、他の子どもさんやお婆さんのご兄弟が既に亡くなられている場合はさらにその子どもが相続人となります。
 このように、お婆さんの親族関係が誰かによって、賃借人としての地位を相続する相続人が誰なのかが決まります。そのため、娘さんに連絡を取り、お婆さんの子どもや親やご兄弟の情報を教えてもらえるか打診してみることが考えられます。
 娘さんが相続放棄した場合は、他の相続人にお婆さんの家具などの片付けを求めることになりますが、他の相続人がいない、あるいは他の相続人も相続放棄した場合には、お婆さんの家具などの片付けを求めることはできません。
 この場合、法的には、こちらで無断で片付けることはできず、相続財産管理人選任の申し立てを行い、相続財産管理人に対して契約解除と建物明け渡しを求めることで片付けが可能になります。実は、この相続財産管理人選任の申し立てはかなりの管理費用を予納しなければならず、できれば避けたいところです。
 お婆さんの相続人と連絡を取る際に、賃料や片付けはそちらで行わなくていいので、相続放棄はせず残置物の所有権を放棄する旨の書面を差し入れてもらえないかと交渉することが考えられます。相続人からこの書面をいただければ、こちらで問題なく片付けることができます。

知っておきたい 相続の基礎Q&A File.10

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