知っておきたい 相続の基礎Q&A File.12
週刊かふう2020年6月26日号に掲載された内容です。
相続における胎児の権利について
残念なことですが、相続は、突然やってくることもあります。自分たちの相続でなくとも、契約関係のある人に相続が発生した場合に対応が必要となることがあります。
今回は妊娠中の方が、相続の関係でおなかの中の子の権利を守らなければならない場合や未成年者がからむ相続の手続きについて見ていきましょう。
Q.夫の姉から、私が住んでいる自宅の土地建物は夫の名義で自分も相続人となるはずなので、自宅の土地建物を売却して金銭を分割したいと言われました。
私は、夫と結婚して10年ほどになりますが、最近、待望の子を授かりました。夫とともにわが子が生まれるのを本当に楽しみにしていたところだったのですが、夫が急な事故で亡くなってしまいました。
夫が亡くなってから、法要などに追われ、先日ようやく四十九日法要まで無事に終わらせることができたのですが、その席で夫の姉から、私が住んでいる自宅の土地建物は夫の名義で自分も相続人となるはずなので、自宅の土地建物を売却して金銭を分割したいと言われました。
確かに、私が住んでいる自宅の土地建物は夫の名義で、夫の両親は既に亡くなっていて、夫の姉弟はお姉さんお一人です。夫の遺言書などもありません。
夫の姉の言うとおり、自宅の土地建物を売却しなければならないのでしょうか。私は出産後も自宅で生活していくつもりでいろいろ準備していましたが、自宅で生活できないと今後の生活の見通しが立ちません。
A.夫の相続人は妻である相談者とおなかの中の子が相続人となります
本件では、夫が亡くなった時点では夫に子どもがいないため、妻と姉が相続人になるように思えますが、実はそれは正しくありません。
相談者は夫の子どもを妊娠しており、おなかの中の子、胎児は相続においては、既に産まれたものとみなすということになっています。つまり、今回の場合は、夫の相続人は妻である相談者とおなかの中の子が相続人となるので、夫のお姉さんは原則として相続人とはなりません。したがって、原則としてお姉さんに夫の遺産を分割する必要はなく、自宅の土地建物も売却する必要はありません。
例外は、残念ながら胎児が死体で産まれてきてしまった場合です。この場合は相続人たる子として扱われませんので、夫のお姉さんも相続人となります。なお、無事に出生したかどうかは、胎児が母体から全部露出した時に生きているかどうかで判断するとされています。
無事におなかの子が生まれて来た場合、相続人は妻と子どもとなりますが、何らかの事情で土地建物の登記をする場合の手続きには注意しておく必要があります。相続登記を行うためには、妻と子どもとの間で遺産分割協議書を作成する必要があります。
通常の手続きであれば、親権者である母が未成年者の子の代わりに押印をして書類を作成することになるのですが、相続の場面では、片方の相続分が多くなれば片方の相続分が減るという意味で、形式的に母子の利害が対立してしまうので、母が子の代理として書類に押印することは利益相反行為として認められません。
このような場合、子どものために特別代理人を選任してもらい、特別代理人との間で遺産分割協議書を作成する必要があります。特別代理人とは、特定の法律行為についてのみ未成年者の子を代理してもらう方です。特別代理人選任の申し立ては家庭裁判所で行う必要があります。この際に遺産分割協議書案の提出も求められますが、この内容が子にとって不利益な内容となってしまっている場合には受理されないことがあるので注意が必要です。