知っておきたい 相続の基礎Q&A File.14
週刊かふう2020年7月31日号に掲載された内容です。
相続人が消息不明の場合と相続人がいない場合の対応について
警察には年間8万件以上の行方不明者届が提出されており、大部分は所在確認ができていますが、中には所在確認がうまくいかないケースもあります。相続人の中に行方不明者がいらっしゃった場合の対応や相続人がいない場合の対応について見てみましょう。
Q.姉夫婦には、一人息子がいたのですが、一人息子には10年以上前から全く連絡が取れなくなってしまい、姉夫婦は警察にも相談して行方不明届けも出したようです。
私の姉夫婦は、実家の近くに家を購入して住んでいました。両親はだいぶ前に亡くなっています。姉夫婦には、一人息子がいたのですが、一人息子には10年以上前から全く連絡が取れなくなってしまい、姉夫婦は警察にも相談して行方不明届けも出したようです。そのうち、姉が亡くなり、姉の夫が一人で住むようになりました。姉の夫は持病があり、高齢でもあったのですが、一人っ子で兄弟や親戚もいなかったので、私の妻が毎日のように通って世話や通院の付き添いをしていました。
先日、姉の夫も亡くなってしまい、葬儀は私たちで行ったのですが、やはり姉夫婦の息子は姿を見せませんでした。なお、姉夫婦とも遺言書などは作成していなかったようです。
そんな折、姉夫婦の家を購入したいという方から私の妻に連絡がありました。私も姉夫婦が亡くなってから姉夫婦の家の台風対策など家の手入れをするのが大変でしたので、できれば売却したいと思うのですが、難しいでしょうか。
何か方法はありますか。
A.家庭裁判所に対して、姉夫婦の一人息子の失踪宣告の申立を行うことが考えられます。
ご相談のケースですと、本来は姉夫婦の一人息子が姉夫婦の相続人となります。まずは姉夫婦の一人息子さんと今一度連絡が取れないか試みることになるでしょう。弁護士等は、職務のために必要があれば住民票等を取り寄せることができますので、そこから連絡が取れることがあるかもしれません。
それでも所在不明であれば、家庭裁判所に対して、姉夫婦の一人息子の失踪宣告の申立を行うことが考えられます。失踪宣告とは、生死が不明な人に対して、法律上その者が死亡したのと同一の効果を生じさせる手続きです。
失踪宣告は単に所在がわからないだけでは認められず、7年以上生死不明の状態であることが必要です。今回の姉夫婦の一人息子については、10年以上前から全く連絡が取れない状況とのことですので、家庭裁判所で失踪宣告を得ることができると思われます。その場合、姉夫婦の一人息子が生死不明の状態が7年間継続した時点で、姉夫婦の一人息子が死亡したとみなされます。
姉夫婦の一人息子について失踪宣告がなされると、姉夫婦には相続人がいないことになります。
次に、相続人不存在の場合、被相続人の財産は相続財産法人として扱われ、家庭裁判所は、申立により、相続財産の管理人を選任します。相続財産管理人選任後、公告がなされます。公告とは官報等により相続の発生、相続財産法人を告知することで、債権者に対する公告と相続人に対する公告があります。相続人に対する公告とは、相続の告知により、本当に相続資格を有する者がいないのかについて最後の申し出の機会を与える手続です。この期間内に相続人として届出がなされなければ、相続人の不存在が確定します。
相続人不存在の確定後、特別縁故者(相続人ではないが、被相続人と特別の縁故のあった者)がいる場合、家庭裁判所は、相当と認めるときはその者からの請求によって、相続財産の全部または一部を与えることができます。
相談者の妻は、姉の夫の特別縁故者として認められる可能性があり、家庭裁判所から相続財産の全部または一部として姉夫婦の家の所有権を与えられた場合には、家の所有者として売却等の処分を行うことができます。