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住宅情報紙「週刊かふう」新報住宅ガイド

こんな家に住みたい

光・風が巡りせせらぎが聞こえる五感に寄り添った2世帯住宅

光・風が巡りせせらぎが聞こえる五感に寄り添った2世帯住宅

DATA
設  計: 有限会社門一級建築士事務所
     (担当/金城司)
敷地面積: 406.64㎡(約123坪)
建築面積: 121.43㎡(約36.73坪)
延床面積: 223.85㎡(約67.71坪)
用途地域: 第一種低層住居専用地域
構  造: 壁式鉄筋コンクリート造
完成時期: 2020年11月
建  築: 有限会社クリエイト技研
      (担当/伊古光)
電  気: 有限会社糸洲電気工事社
     (担当/糸洲均)
水  道: 有限会社沖水
     (担当/運天正昭)
キッチン・ガス: 株式会社未来相互ガス
     (担当/池根涼)
理髪機器: タカラベルモント株式会社
     (担当/津波古次生)

母と子2代で同じ仕事場に立つIさんは、築年数が経過した職住一体型の実家を建て替えて、店と家族の歴史を継ぐ2世帯住宅を新築しました。白い立面で構成された外観フォルムは道行く人の印象に残り、地域の新たなシンボルとして町並みに溶け込んでいます。

※週刊かふう2022年3月4日号に掲載された内容です。

光・風が巡りせせらぎが聞こえる五感に寄り添った2世帯住宅

一つの建築として存在感のある店舗併設の世帯コートハウス

 Iさん宅を構成する基本要素は、店舗・親世帯・子世帯の3つ。ほぼ正方形をした平面図を俯瞰すると、中庭を挟んで南側に店舗、北側に住居スペースが置かれています。1階親世帯と2階子世帯は外階段のみで連結する完全分離型の2世帯住宅で、店舗屋上は2階LDKから出入りできる開放的なアウトドアスペースになっています。
 外観には白い壁が「面」として立ち上がり、居住空間のオープンな雰囲気とは裏腹に、外部からの視線をコントロールしたコートハウス的なたたずまい。店舗らしい要素はほとんどなく、「新装開店に向けて商材を発注したら、運送業者が“どこにもそれらしい建物がない”と言ってたどり着けなかったんです」とご主人。1階入り口にある水盤のせせらぎが、周囲の住宅街に静かにこだましています。

 この場所にはもともと40年以上前から、Iさんの母親が営む店舗兼実家がありました。ご主人も同じ道に進んで内地で経験を積み、帰沖後は近隣の集合住宅に住みながら実家に通勤して、母と子で一緒に働く毎日。やがて建物の老朽化とともに「2人の子どもたちが大きくなって、以前の住居が手狭になった」ことから建て替えの話が持ち上がり、具体的に計画を始めました。
 とはいえ「家のイメージがまったく湧かず、自分たちが果たしてどんな生活をしたいのかさえさっぱり分からない」状態。困り果てて建設会社に相談したところ、「県内外で活躍する建築家が一同に介した建築展を定期的に開催しているから、一度訪問してみては」と勧められ、そこで出会ったのが依頼した建築家でした。
「一目ぼれでした。白を基調にしたシンプルで清潔感のあるデザインの作品が多く、直感的にいいなと思いました」と奥さま。一緒に見学した母親も、まったく同じ感想でした。

光・風が巡りせせらぎが聞こえる五感に寄り添った2世帯住宅

リビング南側の中庭から採光・採風
効率的・機能的な家事スペース

 1・2階で上下に重なる親子世帯は、ほぼ同じレイアウトです。玄関を上がると真っすぐに広がるLDKがあり、南側の中庭に面して大きく窓が取られ、家中にたっぷりと光と風を招き入れています。
「模型や図面を見て想像していたよりも、はるかに窓が大きくてびっくり。風通しも本当に良くて、窓を少し開けるだけで隅々まで換気できます」と入居直後は驚きの連続でした。中庭とは反対のリビング北側には個室が並び、家族それぞれの生活リズムが異なっていても、必ず顔を合わせるような位置関係になっています。

 キッチンの奥には水回りと家事スペースが集約されており、身支度や片付け、洗濯など一連の動作が効率的にこなせるように設計されています。5メートル以上にわたってパイプハンガーが連続した大容量のウオークインクローゼットは、「個室に収納を置かなくていいように」と設けたもの。その隣にある室内干し場は奥さまが強く要望したスペースですが、「日当たりが良くて、ルーバーを開ければ風も通るから、除湿機要らずの日も多くて助かっています」。

 1・2階で大きく異なる点は、親世帯と店舗の間に仏壇スペースがあること。普段は仕事の合間に母親が一服するための休憩場所となり、行事ごとがあれば中庭まで開放して、親類が集まれるようになっています。また店舗前にあった水盤は、中庭との間で水を循環させているため室内側にも水音が響き、訪れた顧客に清涼感を届けて「せせらぎがここまで聞こえる」と言われることも多いそうです。
 新居が完成して約1年半。仕事も生活もこんな具合に、長年慣れ親しんだ旧居からスムーズに移行し、新鮮で淡々とした毎日が刻まれています。

写真ギャラリー

設計・施工会社

有限会社 門(じょう)一級建築士事務所

TEL:098-888-2401http://www.jo1q.com/

TEL:098-888-2401http://www.jo1q.com/

南風原町字津嘉山750-1

光・風が巡りせせらぎが聞こえる五感に寄り添った2世帯住宅

併設の店舗に看板は不要。
存在そのものが看板となるような建築デザイン

一級建築士:金城司さん

風の通り道として、中庭や坪庭を効果的に配置
図面には表れない、音や光の変化まで緻密に計画

 一般的に店舗には人目を引くサインなどが必要ですが、逆に何もないほうがふさわしいケースもあります。今回のIさん宅はその好例であり、大がかりな看板を掲げる代わりに存在そのものが看板となるような建築を目指しました。

 敷地は南・東・北の三方が接道し、約120坪の広さがあってきれいな長方形をした恵まれた環境です。その中で店舗スペースは法律で定められた最大限の床面積を確保しつつ、一方で住居部分は敷地のボリュームに引っ張られないようにご家族の生活サイズに合わせて設計し、職住のバランスを整えていきました。店舗入り口は本来なら、大通りから見て正面にあたる南側に置くべきですが、ご主人から「台風時の風当たりが強く、以前の店舗では何度も被害を受けた」との申告があり、新居では北側に移動。母と子の2代で40年以上営業を続け、多くの顧客がいる老舗店にとってはむしろ目印などは不要であり、一見しただけで印象に残るような建物自体のデザイン性に加えて、店舗前に水盤を設けたり、植栽にレモンの木を植えたり、さまざまな仕掛けをちりばめることで、道行く人の意識と話題に上るような建築にしたいと考えました。

 また住居部分のプランニングについて、風の巡りの良い室内環境を構築することは、Iさん宅に限らず常に最重視しているテーマです。前ページの奥さまの感想にあった「リビングの窓を少し開けるだけで風が舞い込んでくる」、「最奥部にある干し場まで風が通る」といった状況はまさに計画通りです。他にもトイレや浴室の脇には坪庭を設置して小窓を設け、家中のどこにも空気がよどまないようにしています。

 水盤を流れるせせらぎの音、間接照明を多用した明かりの演出など、図面では表せない五感に訴える要素も大切にしています。例えば採光・採風装置である中庭は、営業中は店舗とも共有し、訪れた顧客は時間ごとの光や天気の移ろいを感じられます。店舗前の水盤は、視覚的に潤いをもたらすとともに店舗内まで音が届くように計画し、いるだけで癒やされるような環境を創造しています。

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