基礎からわかる相続Q&A File.9 認知症の方が相続人となる場合
週刊かふう2022年7月22日号に掲載された内容です。
Q.認知症の症状が出始めている方が相続人となっているケースなど、 相続人の一部に判断能力が失われてしまっている方がいる場合の対応を教えてください。
昨年、祖父(父方)が亡くなりました。遺言書は作成されていなかったようです。祖母は既に亡くなっていて、祖父母の子どもは私の父と叔父(父の弟)さん、叔母(父の妹)さんの3人です。
最近、その叔父さんから私に連絡がありました。叔父さんの話だと祖母が生前住んでいた家の他に、祖母名義の不動産が複数あり、祖父が住んでいた家については叔父さんが、家以外の不動産を父と叔母さんが継ぐということで叔母さんと話がついたので、私に父の代理として遺産分割協議書の書類作成をしてほしいというものでした。
実は、最近父は高齢のせいか、同じことを何度も聞いたり話したり、直前まで話をしていた人の名前がわからなかったり、家の近所でも迷子になったり、字を書くことも難しく、認知機能が怪しくなっているように感じます。ごく簡単な話はできますが、お金の管理などは難しく、日常生活にも補助が必要で、私が父と同居して世話をしている状況です。
私としても叔父さんの提案はそんなに変な話ではないと思うのですが、私が父の面倒を見ている親族ということで、私が代理で書類を作成しても良いのでしょうか。もしそれができない場合はどのように対応するべきでしょうか。
A.遺産分割協議を行うために、お父さまについて成年後見の申し立てを行って成年後見人をつけてもらい、お父さまの成年後見人との間で遺産分割協議を行うことが考えられます。
おじいさまの相続人はお父さま、叔父さま、叔母さまの3人です。
遺産分割協議書を作成する際には、必ず自署で署名することになっているわけではなく、本人の意思に基づいて代筆することは法的に認められています。しかし、お父さまの認知機能が怪しくなってきている状態とのことなので、お父さまは法的には意思能力を欠いている可能性があります。意思能力とは、ざっくり言うと自分の行為の結果を判断するに足るだけの精神能力のことです。意思能力を欠く状態の相続人を含めて行った遺産分割協議は、法的には無効となってしまいます。
そして、相談者はお父さまの面倒を見ている親族ですが、お父さまが意思能力を欠いている場合、当然にお父さまの代理で遺産分割協議書を作成する資格があるわけではありません。したがって、お父さまの判断能力次第では、このまま遺産分割協議を行って、遺産分割協議書を作成すると法的に無効となってしまう可能性があります。
このような場合、遺産分割協議を行うために、お父さまについて成年後見の申し立てを行って成年後見人をつけてもらい、お父さまの成年後見人との間で遺産分割協議を行うことが考えられます。
成年後見とは、財産管理能力を欠いている方のために成年後見人を選任して財産を保護するための制度で、成年後見人とは財産管理能力を欠いている方のためにその方に代わって財産を管理する立場の人のことです。成年後見の申し立ては親族らが家庭裁判所に対して行い、裁判所が後見開始および後見人選任の審判を行うことで利用できるもので、裁判所の手続きを経ずに成年後見人になることはできません。
成年後見人選任の申し立てをする際、お父さまの判断能力についてのお医者さんの診断書を添付して出すことになります。このお医者さんの診断で「後見相当」とされている場合に後見人選任を求めることができます。逆に、お医者さんがお父さまの判断能力について「後見相当」と判断しなかった場合、お父さまはまだ判断能力が残っているものとして、相談者がお父さまの意思をきちんと確認して代筆するなどして遺産分割協議を行うことができると考えられます。
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