よくわかる不動産相続 Q&A File.16
週刊かふう2017年11月24日号に掲載された内容です。
「家族信託」を活用した財産承継
相続や財産管理を円滑に進めるにあたり「家族信託」が注目されており、それを活用する事例も出てきています。要因は、一人一人の家庭や財産の状況に応じて自由に設定ができること。
また従来の相続対策や財産管理の手法では叶わなかったことを実現できる可能性を「家族信託」が有しているからでしょう。
Q.私(A)は、お墓や仏壇とともに先祖代々の財産を引き継ぎ守ってきました。
これからも沖縄の古くからの慣習に倣い、先祖代々の財産を墓や仏壇とともに直系の子へ引き継いでもらいたいと願っています。私には亡き妻との間にもうけた、長男B、次男C、長女Dと3人の子がいますが、長男は未だ独身で今後も結婚の予定がなく、次男には2人の子(長男・孫E、長女・孫F)がおり、長女は結婚しましたが子はいません。私としては、財産を墓や仏壇とともに長男Bに承継させ、長男の死亡後は長男の子(孫)に承継させたいと望んでいます。しかし、長男Bがこのまま結婚せず、また子ができないまま他界してしまった場合には、次男Cの長男(孫E)に承継させたいと考えていますが、それは可能でしょうか。
A.先ずは、遺言書作成を検討してみます。
Aさんが、自身の財産を長男Bに相続させる旨の遺言書を作成します。Aさんの相続開始後、財産を相続した長男Bは、自分に子ができたらその子に相続させる旨の遺言書を作成し、子ができなかったら甥(次男の子E)に相続させる旨の遺言書を作成するということが考えられます。ところが、この方法ですとAさんの死亡後に、長男Bが、生前のAさんの意思にそう内容の遺言書を作成するという保証はどこにもありません。Aさんの遺言書は一代限りのみ有効ですので、Aさんの遺言書作成時に長男Bの意思まで拘束することはできません。よって、Aさんの希望とおりの財産承継がなされない可能性もあるのです。また、遺留分減殺請求権も考慮しなくてはなりません。仮に全ての財産を長男Bが相続するとした場合、相続財産を取得出来なかった次男Cと長女Dはそれぞれ長男Bに対し、遺留分減殺請求権を行使して、一定の割合の相続財産の取得を請求することが出来るのです。
次に家族信託を検討してみます。Aさんが委託者となります。受託者については、長年にわたり継続する家族信託ですので、例えば、長男Bさんの他に予備の受託者を指名しておくとか、一般社団法人を設立し、当初より当該法人を受託者とする等の方法があります。家族信託設定時の受益者はAさんとします。そしてAさん亡き後の次の受益者、いわゆる二次受益者を長男Bとし、長男B亡き後は、長男Bに子がいればその子、いなければ次男Cの子である孫Eを三次受益者とします。受益者は何代先までも指定ができ、まだ生まれていない孫や曾孫も指定することが出来るのです。但し、期間の制限があり、信託設定から30年経つと受益権の承継は一度しか認められません。事例では、Aさんの死亡で長男Bさんへ、長男Bさんの死亡でBさんの子かAさんの孫Eさんへと、受益権が当事者の死亡で消滅し、予め次順位の受益者と決められた者が新たな受益権を取得するように契約することで、Aさんの希望どおりの財産承継の設定が可能です。但し、ここでも遺留分減殺請求権の行使が気になるところです。受益権の移動について、信託法の条文中に「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め」との記載があります。これは受益権が相続ではなく、契約により消滅し発生すると規定しているものと考えられることから、受益権は相続財産ではないとする考え方もあるのですが、今のところ最高裁判所の判例がないので確たることは言えません。家族の事情によっては、実家やお墓を守りつつも、将来の遺留分減殺請求権の行使を想定した家族信託の設定を検討していきます。
※「家族信託」という用語は正式な法律用語ではありません。信頼できる家族に財産の管理処分を任せる信託という意味で一般社団法人家族信託普及協会が商標登録した用語です。本原稿は同協会の了承のもと「家族信託」を使用しています。