よくわかる 不動産相続の勘所 Q&A File.2
週刊かふう2018年7月20日号に掲載された内容です。
・妻と兄弟が相続人だと……
・トートーメー承継
前回は「相続と贈与の違い」について解説いたしましたが、その中で「法定相続人」についても簡単にお話させて頂きました。今回は、それを踏まえ「トートーメーの承継」についてもお話したいと思います。「トートーメー」は沖縄独特の慣習、法律的にも若干馴染まないところもありますが、それだけに難しく重要な問題。内容をご理解いただき、皆様の解決の一助になれば幸いです。
Q.将来、私の財産が相続される場合の留意点をご教示願います。
Q1.私たち夫婦(子供はいません)は飲食店を経営しており、そこから得た利益でアパートを購入することもできました。私は3人兄弟の長男で、次男とは仲が良いのですが、三男とは疎遠であり、ここ数年は連絡も取っておりません。将来、私の財産が相続される場合の留意点をご教示願います。
Q2.また、私は親からトートーメー(位牌、仏壇)や、先祖代々受け継いだ土地を承継しており、甥にトートーメー等の財産を引き継がせることも検討しておりますが、その際の留意点を教えてください。
A.遺産分割協議を行うことになります。
A1.相談者の場合、奥様と弟2名が法定相続人となり、その3者間で遺産分割協議を行うことになります。たとえ夫婦で築いた財産であっても、奥様がその財産を相続するには、弟2名の同意を得る必要があります。
A2.相続が発生した場合、トートーメーは、甥が引き継ぐことができますが、その他の財産は、相続人である弟が財産を引き継ぎ、その後、弟の相続により、甥に財産が引き継がれることになります。
甥に直接財産を承継させたい場合は、遺言書または、養子縁組の検討が必要となります。
解説1 定相続人とは
法定相続人とは、民法で定められており、亡くなった方の財産を引き継ぐこと(相続)ができる人をいいます。
法定相続人は、配偶者と一定の親族となります。一定の親族とは子供、父母、兄弟姉妹で、その順位が決まっており、先順位の親族がいる場合、後順位の親族は相続できません。
(1)配偶者
配偶者は常に法定相続人となります。配偶者は亡くなった方との婚姻関係がある人ですので、内縁関係にある人や、離婚をした人(先夫、先妻)は含まれません。
また、婚姻期間は考慮されませんので、仮に婚姻期間が1か月でも、法定相続人となります。
(2)第一順位(子供)
子供が亡くなっている場合は孫が法定相続人となります(代襲相続)。子供には、実子の他、養子も含まれます。亡くなった方が再婚している場合、先妻・先夫の子供も対象となります。
(3)第二順位(父母)
子供がいない場合、父母が法定相続人となります。父母がいない場合は祖父母が法定相続人となります。
(4)第三順位(兄弟姉妹)
子供、父母がいない場合は、兄弟姉妹が法定相続人となります。
兄弟姉妹は、父母を同じくする兄弟姉妹のほか、父母の一方だけを同じくする異母兄弟も該当します。 また、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、その子供(甥、姪)が法定相続人となります(代襲相続)。
※亡くなった方に相続人がいない場合は、その財産は国のものとなります。ただし、特別縁故者(亡くなった方と共に生活をしていた人、療養看護していた人等)が財産分与を受ける場合もあります。
(5)相続税計算に影響する
法定相続人の数
相続税は財産から基礎控除額を引いた金額に対して課されます。基礎控除額は、法定相続人の数により計算されます。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
※生命保険、退職手当金等の非課税限度額の計算においても、法定相続人の数が考慮されます。
(6)養子の数の制限
基本的に民法の法定相続人と相続税法上の法定相続人は同じです。ただし、基礎控除額を計算する上での法定相続人に含むことができる養子の人数は、以下のとおり制限があります。
・実子がある場合・・・1人まで
・実子がない場合・・・2人まで
また、民法では相続放棄をした人は、法定相続人となりませんが、相続税の計算上は、相続放棄をした人も、法定相続人としてカウントします。
解説2 トートーメー承継者の財産承継
沖縄県内では、子供に男性がいない場合は、父方の兄弟等の子供をトートーメー承継者とする風習があります。
トートーメー承継者の財産承継は次のとおりです。
(1)トートーメーの承継
トートーメー等の祭祀財産は、祭祀承継者(遺言書や地域の慣行により定められた人)が引き継ぎます。
(2)トートーメー以外の財産の承継
トートーメー承継者が相続人であれば、遺産分割協議により、財産を引き継ぐ事になります(図1)。相続人でない場合は、相続人がいったん財産を引き継いだのち、相続、贈与等により承継者へ財産を移転することになります。(図2)この場合、相続税・贈与税等の移転コストが発生してしまいます。
解説3 まとめ
相談者のケースの様に、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、遺産分割協議が難航するケースが多く、事前の対策が必要と思われます。この場合、奥様へ相続させる旨の遺言書を作成することで、トラブルを防ぐことができます。
遺言書による財産の引継ぎでは、遺留分(相続人が最低限相続できる財産)を考慮する必要がありますが、兄弟に遺留分はないので、今回のケース(相続人が妻・兄弟の場合)は、問題が起きにくいと考えます。
また、甥へ財産を直接引き継がせることを検討しているのであれば、遺言書を作成するか、甥を養子にする方法が有効となります。しかし、養子に入れることは、遺産分割協議の当事者が増えることになりますのでご留意ください。